<特集>通信事業者DX キャリアの未来学「通信キャリアは中長期的にDX企業として飛躍する」KPMGコンサルティング 石原剛氏

通信事業者がDX企業としての企業価値を高めるには、CT(Communication Technology)、すなわちネットワークのインテリジェント化に磨きをかけることだ。それが、他のDX企業との差別化にもつながる、とKPMGコンサルティングの石原剛氏は語る。

通信事業者のDX企業としての企業価値は、現状それほど高くはない。しかし、3~5年後あるいは10年後には、飛躍的に向上するポテンシャルを秘めていると見ている。

DXの進展が遅れているのは、2つの理由からだ。

1つめに、他の業界と比べてDX導入の切迫度が低いことである。

昨年、経済産業省と東京証券取引所は、「DX銘柄2021」を発表した。DX銘柄は、東証に上場している約3700社のうち、デジタル技術を前提としたビジネスモデルや経営の変革に果敢にチャレンジし続けている28社が選定され、情報・通信業界から選ばれたのはソフトバンク1社のみだった。

DX銘柄2021のレポートを見ると、DXの取り組みが進んでいるのは、運輸や銀行、証券などのように、今のままでは将来的に立ち行かなくなることが明らかな業界が中心だ。

翻って情報・通信業界は、NTT、KDDI、ソフトバンクの大手3社が利益率20%前後をキープし、売上高も5兆円を超えており、切迫度は低い。

とはいえ、足元を見ると、コア事業である通信事業の成長率は鈍化し、ARPUの伸びも頭打ちだ。各社とも経営者は強い危機感を持っており、新たなコア事業として、非通信事業や法人ソリューション事業を強化している。B2B2Xによるエコシステムを構築するためパートナープログラムを立ち上げ、パートナー企業との共創によるユースケースの開発も進めている。

そうしたなか、DXを推進していかなければならないという機運が、全社的に高まりつつあるように思う。

2つめの理由として、業界の特性上、DX導入が難しいことが挙げられる。

通信のようなインフラ産業は社会性・公共性が高く、「キャリアグレード」という言葉が使われるように、一定レベル以上の高いサービス品質を維持することが求められる。そのため、大胆な変革を行いにくい。しかし5G以降、ネットワークのオープン化や仮想化、さらにはAIや機械学習で基地局を制御しネットワークをインテリジェント化する取り組みが進んでいる。これに伴い、DX導入も加速すると考えている。

CTによるITとOTの融合現状、DX企業として評価が高いのは、ITだけでなくOTにも強い企業だ。これは、現場というDXを高度化するための“実験場”を自社で持っていることが大きい。

そうした状況の中で、通信事業者がDX企業としての企業価値を高めるには、CT(Communication Technology)に磨きをかけ、コアコンピタンスにすることが重要だ。これは一言でいうと、ネットワークのインテリジェント化だ。

消費電力を抑えたり、信頼性を高めるといった制御を行えるようになれば、アプリケーションごとに最適なQoSを提供することも可能になり、無線の利用価値は非常に高まる。5G/Beyond 5G 時代のCTが持つポテンシャルを最大限に活かしたITとOTの融合が、通信事業者ならではのDXといえるだろう。

NECや富士通など、CTのケイパビリティを保有するベンダーもローカル5Gを提供しているが、制度上の制限からエリアが限定される。例えば製造業のサプライチェーン全体をDX化するには、全国でサービス提供が可能なキャリア5Gとの連携が不可欠だ。カバーエリアの広さも、DX企業として他社との差別化につながるだろう。(談)

石原剛氏

テクノロジー・メディア・通信セクター シニアマネジャー。1997年3月に東北大学大学院博士課程後期修了。工学博士(電気通信工学)。NECを経て、2019年1月KPMGコンサルティング入社。5G/ローカル5Gなど、通信関連のアドバイザリーサービスの開発、ビジネスディベロップメントを担当

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