<特集>通信事業者DX キャリアの未来学「キャリアのDXは今後2~3年が勝負どころ」SBI証券 森行眞司氏

「日本にDXを広めるにあたっては、各キャリアの意識改革が不可欠」。長年、通信業界を担当する森行氏はこう分析したうえで、今後2~3年が勝負どころだと指摘する。

DXとは社会や組織の在り方を根本から変革することであり、その意味では日本の通信事業者はどこもDXを成し遂げていない。従来通りのIT化の域を出ていないのが現状だ。

大手3キャリアを個別にみていくと、その経営方針はここ20年ほど大きくは変わっていない。

NTTは圧倒的なアセットと技術に根差した戦略を推進しており、近年のIOWN構想もその流れだ。

KDDIはNTTへの対抗勢力として誕生した経緯があることから、勝てるところをしっかり抑えている。例えばインフラは大都市圏を中心に展開している。パートナー戦略にも秀でており、トヨタやコンテンツ事業者などと堅実に連携している。

ソフトバンクはもともと通信事業者ではなかったためか、柔軟な発想でマーケティングを仕掛ける。ADSLのときも「品質が悪いから売れない」という大方の見方を価格破壊で覆した。

こうした方針はDXの戦略にも影響している。KDDIは研究所でいち早く他社と連携しながらアジャイルな研究開発を実践しているし、ソフトバンクは他社や国外の新しいソリューションをどんどん売って広げている。NTTは自社インフラの活用や技術指導という形で、他産業に入り込んでいる。

実をいうと大手キャリアは、それぞれの強みを活かしながら新しい技術や概念を広げてきた経緯がある。NTTが新技術の開発に注力し、新しいものをソフトバンクが持ち込み、KDDIがパートナーと共に広げるといった具合だ。

DXのように全く新しい発想を産業界に導入する過程においてもこれまで通り、各社が得意なフェーズで力を発揮しながら日本全体に広げていくことが予想される。この構図はNTTとKDDIがサラリーマン社長であり、ソフトバンクの孫正義氏が現役である限り、大きくは変わらないだろう。

新規参入の楽天モバイルは対照的に、大手3キャリアが狙う非通信事業を軸足に参入してきた。上位レイヤーで一番先行しているのは楽天だ。ここまでの通信事業についても、大きな障害なく、500万ユーザーへ完全仮想化ネットワークを提供するに至った点は評価したい。非常に面白い存在と考えている。

 

SBI証券 森行眞司氏
SBI証券 シニアアナリスト。1988年に大和証券に入社して以来、
30年以上アナリストとして企業の調査・分析に携わる。
1992年以降は情報通信サービス業界を中心に担当し、
トムソンロイターのスターマイン・アナリストアワードでは、
通信部門で計4回の首位を獲得している

DXに魂を込めよ冒頭で真のDXはどの通信事業者も成し遂げていないと述べたが、これは通信事業者ばかりに責任がある話ではない。日本は安定志向の経営者が多いし、欧米のように経営層が一気に入れ替わることもない。切り捨てることを良しとしない国民性や、教育にも根ざしている問題だ。こうした環境を踏まえるとパートナーシップの拡大がDXには欠かせない。通信事業者は今以上に貪欲に、小さいビジネスも自社に取り込んでいく必要がある。

2021年からユニバーサルサービスの一部に、モバイル通信が認められた。限界集落のような場所にも固定網のインフラを張り巡らせる必要があり、通信事業者はそのコストをわけあっていたが、その重荷から一部解放される。NTTにとっては固定電話サービスの終了も大きい。今後2~3年で古いアセットの入れ替えは大きく進むとみている。

DXの必要性を社会や他社に訴えるうえで大切なのは、通信事業者自身がDXを実践することである。古いアセットが入れ替わる今後2~3年の間に、どれだけ新しい取り組みを自らドラスティックに実践し、DXに魂を入れられるかが勝負どころだ。(談)

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