10ギガイーサネット(10GbE)を用いて高精細映像を低圧縮に伝送する規格として、ProAV市場で浸透しつつある技術がある。「SDVoE(Software-Defined Video over Ethernet)」だ。
映像伝送規格には、放送業界で標準規格として用いられてきたSDIや、家庭でも広く使われているHDMI等がある。これらの規格は伝送距離が短かったり、フルHDや4K映像を伝送するには通信容量が不足していたり、さらには映像表現の高度化とともにシステム構成が複雑化するなど、高精細映像の業務活用が広がるにつれて多くの課題が出てきた。対して、IPネットワークで映像を伝送するSDVoEはシステム構成がシンプルにできること、長距離伝送が容易であること、汎用の10GbE/100GbEスイッチが利用できることなど様々なアドバンテージを持つ。
この新規格の普及を推進する業界団体、SDVoEアライアンスのボードメンバーであるネットギアジャパンの渡部敏雄氏は、「映像ソースを1つ増やしたい、出力する画面を追加したいなどといったとき、SDVoEであればイン/アウト関係なく空いているポートにケーブルを接続すればよく、簡単に拡張できる」と話す。この拡張性の高さも見逃せないメリットだ。
ネットギアジャパン 渡部敏雄氏
集中管理と長距離伝送が高評価 米ProAV市場で本格普及へSDVoEで映像を伝送するために利用するのは、SDVoEエンコーダ/デコーダとSDVoEコントローラ、そしてイーサネットスイッチである。SDVoEエンコーダは入力された映像をイーサネットフレームに変換、IPネットワークを経由してそれを受信したSDVoEデコーダが映像信号に戻してディスプレイなどへ出力する(図表)。
図表 SDVoEによる映像伝送システムの構成例
中継するネットワークも合わせて、全体の制御はSDVoEコントローラで一元的に行う。映像伝送はマルチキャストで行われるため、受信側の端末が複数台あっても送信側の帯域は1台分の 10Gbpsで済むことも特長だ。
もう1つ、特に巨大施設で課題となりやすい伝送距離についても、SDVoEは優位性を持つ。
SDIでは最大100m、HDMIに至っては10m程度しか安定した伝送ができないため、リピーターを各所に配置して伝送距離を伸ばすなどの工夫が必要になる。SDVoEであれば「光ファイバーを用いることで、km単位で映像を伝送することが可能」(渡部氏)だ。ケーブルの取り回しや機器設置の負担が軽減できる。
こうした利点が評価された結果、「米国のProAV市場では、ポート数ベースで約30%がSDVoEとなっており、映像伝送規格として急速に広まっている」。幅広い領域でSDVoEが採用されているのだ。一例として挙げたのが、巨大ショッピングモールでの活用だ。「米ニュージャージー州にある、スポーツやエンターテインメント施設、そしてショッピングモールを融合した巨大な施設であるAmerican Dreamでは、360の映像ソースを300の画面に出力するシステムをSDVoEを利用して構築している」という。