――2011年3月期の決算は、「フレッツ光」などIP系サービスの好調により、大幅な増益となりました。
大竹 確かに昨年度は好決算でしたが、未来もバラ色かというと決してそうではなく、私はむしろ今後の経営に危機感を持っています。
フレッツ光の加入者は5月末時点で約670万で、今年度は80万増えると見込んでいます。しかし、このまま普及率が上がっても、若年層は携帯電話に流れて固定離れが進むと、加入者は900万~1000万程度で頭打ちになってしまいます。その頃には電力系事業者やKDDI、ソフトバンクなど競合他社との間で、既存の加入者を取り合うゼロサムゲームになると見ています。
「家まるごとデジタル化」で周辺事業拡大
――IP系サービスが営業収益の3分の1を占めるまでに拡大していますが、新たな収入源が必要になるということですか。
大竹 私は収益構造について、「A×B+C」という言い方をしています。Aは加入者数、Bは1人あたりの加入者がサービスに対してお支払いいただく金額つまりARPUのことであり、CはARPU以外の事業収入を意味します。
従来は定額制のIPサービスの加入者を増やすことで収益を伸ばすビジネスモデルで、実際、現状ではIP系サービスが主な収入源です。しかし、ある程度まで普及が進んだ段階からは、BのARPUを伸ばすとともにCに該当する周辺事業を広げていかなければなりません。地域会社として今後どのように収入を増やしていくかが最大の課題で、2~3年後を見据えて今からいろいろ仕込んでいます。
そうした取り組みの1つが、昨年から提唱している「家デジ」です。これは「家まるごとデジタル化」の略称で、ネットワークですべての機器、すべての人をつなぎ、「デジタル技術の進歩が、すべての人に役立つ社会」の実現を目指すサービスです。お客様のニーズや生活スタイルに合わせ、「エンターテインメント」「コミュニケーション」「セキュリティ」「ヘルスケア」など6つのコンセプトにより展開します。離れて暮らす親の安全を見守ったり、別々の場所にいる3者間で通話ができるといったサービスを提供することで、ARPU向上も期待できます。
お客様の価値観が多様化し、何か1つの商品が爆発的にヒットする時代ではなくなっているので、これからもどんどんメニューを増やしていく予定です。
――固定電話離れが進んでいますが、家庭向けに新たなサービスを打ち出すことで、再び御社の存在感が高まるのではありませんか。
大竹 その通りです。まさに、家庭がキーワードになると思います。というのも、当社はお客様の近くに拠点があり、そこに技術者も置いている地域密着型が特徴です。なかでも当社のように、西日本の津々浦々まで拠点を持っている会社は他にはありません。
また、数年前までは、ITリテラシーの高い方が自分で設定して家庭内でデジタル機器を利用していましたが、今は「使いたいけれど、設定はお任せしたい」という方が増えています。その意味で、家デジはポテンシャルが高いと思っています。昨年度の売上高は約100億円でしたが、今年度はメニューが揃ったので倍増を見込んでいます。さらに2015年までには1000億円規模に成長させたいと考えています。
――同じくコンシューマー向けでは、フレッツ光とWi-Fiを組み合わせた「光Wi-Fi戦略」を展開していますね。
大竹 スマートフォンやタブレット端末は非常に便利で、もはや生活に欠かせなくなっています。これらWi-Fiに対応したモバイル端末による通信を家の中ではフレッツ光に取り込み、外出先では公衆無線LANサービス「フレッツ・スポット」を利用してもらおうという狙いがあります。
今年4月からは無線LANカード等のレンタル料金と無線LAN対応ホームゲートウェイ設置工事費を値下げし、利用しやすい環境を作っています。また、フレッツ・スポットの月額利用料は840円からですが、もう少し安く接続できるようにすることも検討しています。
LTEをはじめ無線でも高速化が進んでいますが、電子書籍のコンテンツを自宅でフレッツ光でダウンロードし、外出先で読むなどWi-Fi対応機器を固定網で利用する方法を提案していくことで、“光離れ”を防がなければなりません。