東京ドーム9個分の広さを持つ、東京都立大学の南大沢キャンパス。この豊かな緑に囲まれたキャンパスを、ローカル5G対応の車椅子に乗った人が、単独で楽しく散歩している姿を近い将来見ることができるだろう。
東京都立大学は、南大沢と日野の2つのキャンパスに4.7GHz帯と28GHz帯を組み合わせてローカル5G環境を構築中だ。ローカル5Gを活用した研究や実証実験を促進し、その成果を社会に還元することが目的である。2020年度は計3件の研究テーマが選ばれたが、その1つがシステムデザイン研究科の串山久美子教授の「ARゲームで楽しく単独移動を支援するAI車椅子システムの社会実装」だ。
東京都立大学 システムデザイン研究科 串山久美子教授
AIやARで単独移動支援串山教授は研究の狙いをこう話す。「車椅子利用者の活動を増やしたいというのが研究のきっかけ。1人でも楽しく安全に外出できるための支援をシステムデザインの力で実現し、車椅子利用者の肉体的な活動量、様々な社会参加などの心の活動量を増やしたい」
車椅子利用者は、外出に億劫になりがちだ。道路には段差などがあるため単独移動は難しく、またこうした路面情報をあらかじめ把握するのも簡単でない。単独移動が困難だと、外出意欲自体も低下してしまう。
串山教授が研究するAI車椅子システムは、内蔵のカメラ/センサーで人や横断歩道、点字ブロック、歩行者信号などの障害物や目的物を検知。音声や振動を使って車椅子利用者に通知することで、スムーズな単独移動を可能にしようというものだ。
このシステムで大きな役割を果たしている1つが、プロジェクトメンバーであるインダストリアルアート学域 馬場哲晃准教授の研究だ。馬場准教授は、視覚障がい者の移動を人工知能技術を用いてリアルタイムに支援するシステム作りに取り組んできた。
東京都立大学 システムデザイン研究科 インダストリアルアート学域 馬場哲晃准教授
「歩行者信号が赤に変わった、前方を人が歩いている、ガードレールがあるといった安全かつ適切に移動するための情報を、機械学習を活用した物体検出によってリアルタイムに提示する」。馬場准教授の下で、これを車椅子向けに応用する。
当然のことながら扱うデータ量は膨大になるが、ローカル5Gの高速大容量であれば処理することが可能だ。
機械学習により障害物・目標物を検出する
移動支援のための情報は車椅子に装着した小型デバイスに表示。さらに、利用者にとってより利便性の高いスマートグラス向けのARコンテンツも制作する。AI車椅子システムの社会実装に向けて、まずは東京都立大学のキャンパス周辺で実証実験を行うが、「5Gがインフラとして街中で整備されれば、介助者が遠隔からリアルタイムに車椅子を操作することも実用レベルで可能になるのではないか」と馬場准教授は予想する。
高齢者や子供、外国人なども1人で移動しやすい街づくりへの貢献を目指したいという。