投資が過熱するデータセンター業界の中でも特に新技術の導入意欲が旺盛なAIデータセンターでは、ネットワーク技術も急激に進化している。データセンター間接続(DCI)、そしてGPUサーバー間をつなぐイントラ・データセンターネットワークにおいても革新的技術が次々と導入されている。
そこで台風の目となりそうなベンダーが、シエナだ。通信キャリア網やクラウド・プロバイダー網向け光伝送システムで高いシェアを持つリーディングベンダーである。
データセンターインフラの構築・運用者にとってシエナは、主にDCI用光伝送装置の提供元と見られているかもしれない。だが、それは過去のもの。認識を改めなければ、最新のトレンドに乗り遅れるおそれがある。通信業界をリードしてきたシエナの光伝送技術が今、データセンターの中にまで押し寄せているからだ。
シエナ日本法人で、システムエンジニアリング本部 本部長を務める今井俊宏氏によれば、「シエナの戦略は今、長距離接続ニーズに対応するだけでなく、データセンター内部とその周りにフォーカスしている」。
日本シエナコミュニケーションズ 執行役員 システムエンジニアリング本部 本部長の今井俊宏氏
“In and Around Data Center”としてシエナが掲げるデータセンター向けソリューションは、大きく3つの領域に分けられる(図表1)。なかでも、シエナが新たなターゲットに据えるのがデータセンター内部。つまり、超大容量かつ低遅延という非常に高性能な通信を求めるGPUクラスターのインターコネクトだ。ここに、シエナのデジタルコヒーレント技術が可能にした「1.6Tbps」伝送を適用する。将来はより高速な伝送が可能だ。
図表1 シエナのデータセンターネットワークビジネス
具体的には、「ハイパースケーラーが最初に導入した『光回路スイッチ(OCS)』と組み合わせる、Coherent-Lite規格のプラガブルモジュールを提供する」(今井氏)。OCSは、電気信号へ変換することなく光信号のまま中継、経路切替を行うスイッチだ。OCSを開発・提供するベンダーも増えてきた。
Coherent-Liteは短距離用途を想定した規格で、省エネ性と低遅延性を考慮した設計が特徴だ。業界団体のOIFが策定した標準仕様に基づき、シエナは1波長で800Gbps伝送が可能なプラガブルソリューション「WaveLogic 6 Nano」を使って製品化している。図表2のように、800Gbpsを2本束ねて1.6Tbps伝送が可能だ。
図表2 データセンター内OCSファブリック(ファイバーペア2本で合計1.6Tbps)
400Gbpsから800Gbpsへのシフトが始まり、さらに1.6Tbps伝送へのニーズも高まりつつあるデータセンター内では今、OCSやCoherent-Lite以外にも様々な新技術が試されている。今井氏によれば、電気変換を行わないOCSと、省エネ・低遅延設計のCoherent-Liteの組み合わせは、GPU間インターコネクトの要件を満たしつつ、消費電力の増大というAIデータセンターの悩みも解決するソリューションになり得る。