新型コロナウイルスの感染拡大以降、多くの大学がオンライン学習の環境を整備してきた。講義のデジタル化や習熟度のデータ化が可能といった価値が生まれる一方、もちろん課題も残されている。講義以外の場で醸成される学生・教職員のコミュニケーションが不足する、共同学習・研究における一体感が欠如するといった課題だ。
立教大学もこの間、様々なコロナ対策を行ってきた。「学生がキャンパスに来られない状況を逆手にとって、よりよいオンライン学習環境を模索してきた」と語るのは、立教大学大学院 人工知能科学研究科委員長の内山泰伸教授だ。Zoomを使ったオンライン講義を日常的に行っているが、それが常態化することで、上記のような課題をより痛感する状況に陥っているという。
立教大学とNTT東が取り組むバーチャルキャンパスのデモ。
VRゴーグルを装着した学生・講師が仮想空間に集まり、コミュニケーションしながら学べる環境を提供する
この現状を打破するために立教大学がNTT東日本と取り組んでいるのが「バーチャルキャンパス」だ。学生・教職員の造形・表情・ジェスチャーをコピーした3Dアバターによって、臨場感を伴ったコミュニケーションが可能な空間を提供しようという試みである。
NTT東日本は、3Dアバター等を実現するためのAI技術開発に必要なコンピューティング基盤の提供や、VRコンテンツ配信の支援などで協力する。両者は相互協力協定を締結して、2021年7月から実証実験を行う。
NTT東日本 東京事業部 東京北支店長の北島隆玄氏(左)と、
立教大学大学院 人工知能科学研究科委員長の内山泰伸教授(右)
2021年6月29日に開催した記者説明会で、NTT東日本 東京事業部 東京北支店長の北島隆玄氏は「実際のキャンパスでは体験できないような、バーチャルならではの体験も提供したい」と述べた。
「オンラインを1年間やってみてわかったこと」
両者が共同開発したバーチャルキャンパスは、講師と学生がVRゴーグルを装着し、仮想教室「Virtual Classroom」上で3Dアバターを操作して講義や共同研究を実施したり、コミュニケーションしたりするものだ。内山教授は一般的なVRアプリケーションとの違いとして、次の3点を挙げた。
Virtual Classroomのイメージ
1つは「アバターが高精度かつリアル」なこと。ギャラクシーズ社が開発した3Dモデル作製技術「Photoreal-Ⅱ」を用いて全身を緻密に再現する。
2つめは、カメラで捉えた本人のジェスチャーや表情をリアルタイムにアバターで再現できることだ。「この1年オンラインで講義をやってみて、身振り手振りが思ったより重要だと感じた」と内山教授。姿勢やジェスチャー、表情を推定するAI技術を活用して、コミュニケーションにおいて重要な身振り手振り、表情の変化を3Dアバターに同期させる。
身振り手振りや表情をリアルタイムにコピーする