1970年代に誕生したイーサネットは、技術革新の早いIT市場からの要求を満たすために常に進化を遂げてきた。ギガビットイーサネット、VLAN、リンクアグリケーション、レイヤ3スイッチングなど、これまで数多くの機能や製品が追加されてきた。こうした進化の多くはネットワークの高速化およびインテリジェンス化に対する需要を満たすために生まれたものだが、それと同時に標準規格だけでは他社との差別化ができないことから各ベンダは独自に機能を追加し、それが市場に受け入れられると標準規格となり、さらに各ベンダは独自機能を追加していく……。こうした競争が30年以上の間、ずっと繰り返されてきたのである。
そして今、「情報爆発」(アプリケーションが処理しなくてはいけないデータの爆発的増加)と同時に「ビッグデータ」の効率的処理(トラフィックなどから生成される大量データを解析し、その中からリアルタイムに価値ある情報を選び出すこと)への対応が求められるようになり、イーサネットは新たな課題に直面するようになったのである。
階層型のツリートポロジの課題
まず、ネットワークベンダ各社が口を揃えて指摘しているのは、階層型のツリートポロジが抱えている問題点だ。データセンタなどのサーバ台数が多いネットワークでは、必要なポート数が1台のスイッチで使用できる数量を超えてしまうので、複数台のスイッチを階層型のツリートポロジで接続しネットワークを形成している。その結果、いわゆる南北方向(階層の上下方向)のトラフィックパターンが形成されるので、データパケットがスイッチを通過する回数が多くなり、どうしても遅延が大きくなる。
また、データパケットが他のトラフィックと衝突する確率も高くなり、さらに遅延やパケットロスが生じることになる。このリスクはスイッチの階層が増えるごとに増大していく。つまり、ツリートポロジでは、パケットはまず南北方向に移動してから東西方向(横方向)に移動できるようになるため、効率という面では不利だ。
スパニング・ツリー・プロトコル(STP)の課題
また、ツリートポロジでスイッチ間を接続(ISL:Inter-Switch Link)する場合、ループがあるとブロードキャストフレームが繰り返されブロードキャストストームを引き起こすことになる。そこで、これを防ぐためにスパニング・ツリー・プロトコル(STP)が考案された。
STPではいずれの2台のスイッチ間も経路(パス)を1本だけアクティブにすることによりループを回避する。その結果、STPでは一度に1つのパスしか利用できず、ISL 帯域幅が単一のパスに限定されることになるので、ネットワーク帯域幅を十分活用できないという課題を抱えている(図表1)。MSTP(Multiple Spanning Tree Protocol)を使用すればVLAN ごとにスパニング・ツリーを分離することも可能だが、スイッチ間のアクティブパスは1つだけという状況に変わりはない。
さらに、STPでアクティブパスに異常が発生した場合、スパニング・ツリーの再定義が必要になるが、この処理はRSTP(Rapid Spanning Tree)を使ったとしても数秒以上かかってしまう。一般ユーザが使うオフィスアプリケーションなら操作時にユーザの思考する時間が若干生じることからこうした遅延は気にならない。しかし、ネットワークの社会インフラとしての重要性が高まっている現在の状況下では、トラフィックの無停止に対する要求は非常に高く、スパニング・ツリーの再定義にかかる時間をさらに短縮する必要が出てきたのである。
図表1 スパニング・ツリー・プロトコルの限界 |
STPは冗長経路をスタンバイ状態にするため(図の点線)、ネットワーク利用率が制限される。(出典:ブロケード コミュニケーションズ システムズ) |