M2Mが次世代ワイヤレスビシネスの起爆剤になると叫ばれて久しい。しかしながら、実態は期待されたほどのスピードで目に見える成果を上げているとはいいがたい。一般の携帯電話加入者ビジネスと比べて、何が阻害要因になっているのか考察してみると、以下が列挙できる。
(1) 携帯電話サービスに比べてARPUが低いため、大きな先行投資を行いにくい
(2) 携帯電話端末のようにデバイス制御の標準化がなされていないため、プロジェクト毎の個別対応になりやすい
(3) BSS/OSS(Business Support Systems/Operation Support Systems)との連携に時間がかかる(SIMアクティベーションや課金をどうするか)
(4) 通信事業者内にM2Mエキスパートがおらず、端末メーカー、システムインテグレーターとの協業にならざるをえない。One Stop Shoppingが実現しにくいため、提案に時間や手間がかかる
(5) グローバル展開への対応に時間がかかる
つまりは、今まで携帯電話事業で培ってきたシステムやノウハウが生かしにくいというのが現実ではないだろうか?
例えば(2)のデバイス制御の標準化については、メーカー各社が様々なアプローチを展開しているが、今もって統一された標準はない。そもそもM2Mデバイスといわれる製品自体にも様々な種類があり、使用されるCPUやメモリー、通信モジュールなどはまちまちだ。このため仕様を一律に統一することは難しい。
こうしたなか、M2M無線通信モジュールメーカーのGemalto Cinterion社は、すでに広く普及しているJavaを共通プラットホームにしようと推進活動を行っている。開発言語をJavaにすることで、より多くの開発者が簡単にM2Mアプリケーションを開発できるようになるのに加えて、既存のJavaプラットホームとの融合や結合も図りやすい。結果的に、短期間かつ低コストでM2Mシステムが構築できるようになるという。
Javaはコスト優先の組み込みシステムにとっては処理負荷が重く、現状ではあらゆるM2Mシステムに向くわけではない。とはいえ、今後のCPUの高性能化、メモリ価格の低下の進展によっては、有力な選択肢の1つとなり得るだろう。
図表1 CinterionにおけるJava推進の歴史 |
実際、Cinterionが提供する製品も性能やコストパフォーマンスの向上、小型化が年々進んでいる。最新の製品では、従来CPU+RFモジュールの構成であったM2Mデバイスにおいて、RFモジュールがCPUを包含する形で1チップ化が可能となっている。
図表2 1チップ化が進むM2Mデバイス用チップ |
RFチップがCPUコア+メモリを包含(下側の絵)。さらにJavaとの組み合わせで生産性を向上する |
M2Mがさらに普及していくうえでは、(3)のBSS/OSSとの連携・統合に向けた取り組みも不可欠だ。通信業界では、迅速にアプリケーションやサービスをクリエーションする基盤としてSDP(Service Delivery Platform)が提唱されてきた。下位のデバイス、利用するネットワーク、アプリケーションやプロトコルの差分を隠蔽し、開発者が迅速にサービスを開発、実施するための仕組みである。M2Mにおいても同様のアプローチで専用のSDPが各社から提唱されている。
図表3 M2M用SDPの一例 |
SensorLogic社(Gemalto社が買収)のM2M専用のクラウドベースSDP。M2Mサービスの実現に必要な各種機能を備えている |
しかしながら、ここでも下位層のデバイスのプロトコル差分を吸収するための標準がないゆえ、各社独自の実装となっている。専用のAPIが用意されているケースもあるが、M2Mデバイス側からすれば、自社のプロトコルをあきらめ、新たにそのAPIに準拠した方式を実装し直すことになる。よほど規模が大きくない限り現実的ではないだろう。それよりは、開発段階からデバイスメーカーにAPIを開示し、それに沿った仕様の専用デバイスを開発してもらうほうが現実的だ。