――これまでNTTグループの中期戦略は「何年までに光何万回線」というように具体的な時期と数値目標を掲げていましたが、今回はそれらを明確にしていません。
辻上 通信の世界ではさまざまな変化が同時並行的に起こっています。モバイルが主役となりLTEのような超高速通信が登場し、スマートフォンが爆発的に普及してきました。また、コンピューターリソースを効率的に利用する仮想化技術の普及や、膨大なデータを集めて分析するビッグデータ、さらにはクラウドの普及等々。しかもそれぞれの分野が、普及スピードも拡がる形も違っていますので、従来のように何年先をターゲットにというような明確な目標を持つことは難しくなっています。
そのような変化の中で、我々自身も変化し、競争の土俵を変えていかなければならないという思いを込めて「新たなステージを目指して」というビジョンを打ち出したのです。
――自らの変化する姿を「“プロバイダー”から“バリューパートナー”へ」としています。
辻上 それが今回の中期ビジョンの一番大切なメッセージです。当たり前のことですが、我々の変化の起点はお客様です。お客様が求めるものを我々が提供し、サポートもさせていただく。現在の市場の変化の先にあるものは、お客様がさまざまなサービスや端末、またキャリアの中から自由に選ぶという世界ですので、その中で我々も、「お客様に選ばれ続けるバリューパートナー」へと変わっていかなければなりません。
――NTTグループが果たすべき役割として、「お客様のニーズに合わせて(Suitable)」「より簡単・便利に(Simple)」「より安心・安全に(Secure)」の3つを挙げていますが、具体的にはどういう内容ですか。
辻上 我々にはこれまで、ともするといいモノを作って陳列棚に並べれば使っていただけるというプロバイダー的意識がありました。しかし、バリューパートナーになるためには、お客様起点で、お客様のニーズに合わせた(Suitable)サービスを、簡単に使え、かつ使いやすい料金で(Simple)提供していく必要があります。
さらに最近はSecure、つまり「安心・安全」への要求がますます高まっています。我々はこれらを大切にしてきた通信のDNAを持っていますので、どのような脅威に対しても先端技術とオペレーション力でお客様をお守りしていきます。
グローバルへの展開力をつける
――中期ビジョンの当面の取り組みの中心として、「グローバル・クラウドサービス」を挙げていますが(図表)、北米発で展開される理由は。
辻上 エンタープライズのお客様でICTに対する強いニーズをお持ちなのは、世界を舞台に戦っている多国籍企業であり、日本企業も積極的に海外展開を図っています。そういう方々のお手伝いをするためにも、我々はグローバルにサービスを展開する力を身につけなければなりません。
図表 新たなステージへ向けた取り組みの概要と中期財務目標 |
そのためには、お客様のビジネスや業界をよく理解したうえで、お客様の業務、バリューチェーンをネットワークの向こう側、つまりクラウドに移行させる知識や技術を持つことです。さらに重要なのが、マネジメントです。いかにスピーディに、低コストで移行を実現させるか。そして、安心・安全にご利用いただくための高度なセキュリティ技術も必要です。
これらを確立させるには、世界最大かつ先進的なクラウド市場であり、日本のようにさまざまな規制がない北米が最適なのです。北米における我々のクラウド事業を「N-Cloud」と呼びますが、そこで目指すのは「お客様のビジネス環境に応じて対応できる包括的なクラウドサービス」です。それを練り上げ、北米を起点とし、日本、さらに新興国まで含め、グローバルに展開していきます。