M&Aなどの手段によって、限られた日本の市場から海外に進出することは、通信キャリアが成長を維持するための有力な選択肢となる。10月に発表されたソフトバンクによる米国第3位の携帯キャリア、スプリント・ネクステルの買収は、その典型例といえよう。
NTTドコモは、2000年代初頭に米AT&Tなどへの出資で1兆5000億円の損失を出したことから海外での事業には慎重だったが、2009年にインドのタタテレサービシズ、韓国のKTに資本参加するなど、改めて力を入れてきている。こうした最近のドコモの海外投資で特徴的なのは、その軸足が通信キャリアからコンテンツサービスなど上位レイヤのプレイヤーにシフトしている点だ。
2000億円達成の鍵に
2012年8月にドコモは欧州最大規模のモバイルサービス提供事業者のボンジョルノ(Buongiorno)へのTOBを完了させた。イタリアに本社を置く同社は、自ら配信や課金のプラットフォームを持ち、インターネットを介してユーザーに直接コンテンツサービスを提供する「OTT(Over The Top)プレイヤー」で、他社のコンテンツの配信や課金を請け負うプラットフォーム事業者としての側面も持つ。現在、北米や南米、アフリカなど50カ国以上でサービスを展開、1600万のアクティブユーザーを抱えている。
また、5月には、ドコモは中国のインターネット検索会社の百度(Baidu)と合弁で同様のコンテンツ配信会社「百度移信網絡技術」を設立。さらに2009年にドコモがTOBで傘下に収めたネットモバイル(net mobile)は、ドイツや欧州の携帯キャリアに対して、コンテンツ配信や課金のプラットフォームを提供する企業だ。ドコモはこれらの会社を使って、何を実現しようとしているのだろうか。
ドコモの海外事業を所管する執行役員国際事業部長の紀伊肇氏は、その狙いの1つを「これらのプラットフォームを組み合わせて日本で展開されているアニメやゲームなどのコンテンツを世界のユーザーに届けること」だと説明する。現地のユーザーをターゲットとして、新たなビジネスを展開しようとしているのである。
ドコモの国際事業部は、国際ローミングや国際電話を所管するとともに、海外企業へ出資・提携、キャリア間のアライアンスの推進など、広くドコモの海外業務を担う組織だ。中期ビジョンのミッションにおいても、自らの所管分野のみならず、新領域事業の海外展開を所管部門と共同で推進する役割を果たしている。
2011年度の国際事業部の売上は、ローミング収入や出資先企業からの配当など約1000億円。このうち国際部が展開する「新領域分野」の収益は2011年度で約300億円に上る。中期ビジョンでは、これを2015年度に約2000億円にまで拡大する計画が打ち出された(図表)。
図表 国際分野での新領域事業の展開
特にボンジョルノとネットモバイルはそれぞれ100%、9割以上をドコモが出資し経営の主導権を握っており、両社の成長はドコモの新領域分野のメディアコンテンツ事業とアグリゲーションプラットフォーム事業の数字を押し上げることになる。ボンジョルノとネットモバイルのビジネスが、この目標を達成する上での鍵を握っているといえそうだ。