ミリ波レーダーで人物・行動を推定 東急不動産とQuantumCoreが実証実験

5Gで活用が進むミリ波。人物の特定や行動の分析に、このミリ波を活用する取り組みが進んでいる。カメラと違い、プライバシーを確保しながらデータを取得することが可能だ。

 

5Gでは、広い帯域幅を確保し高速大容量通信を実現できるという理由からミリ波が使われている(ミリ波は30~300GHzの周波数の電波を指し、厳密には現在、日本で5G用に割り当てられている28GHzはミリ波ではない)。

人間の居場所推定や行動分析に、このミリ波を活用しようとする取り組みが行われているのをご存知だろうか。

昨年8月~今年2月、東京・渋谷にある東急不動産のシェアオフィス「Plug and Play Shibuya」において、利用者の行動データを60GHzレーダーで取得し、エッジで認識処理を行うという実証実験が実施された(図表1)。

 

図表1 実証実験の概要
図表1 実証実験の概要

これは東京都「令和3年度スタートアップ実証実験促進事業」の1つとして採択されたもので、コア技術を担当したのが、参加メンバーのQuantumCoreだ。

独自技術で分析精度が向上2018年に設立されたベンチャー企業のQuantumCoreは、レザバーコンピューティングを活用したAIソリューション「Qoreシリーズ」を開発・提供している。レザバーコンピューティングとは耳慣れない言葉だが、再帰型ニューラルネットワーク(時系列などの系列データを扱うことができ、音声認識や文章解析に使われる)の一種だ。

QuantumCore 代表取締役CEO 秋吉信吾氏
QuantumCore 代表取締役CEO 秋吉信吾氏

一般的に、ディープラーニング(深層学習)は学習データが入力層、中間層、出力層という3つの層を通過して処理され、出力結果が導き出される。このうち学習データにどのような特徴があるかを数値化した特徴量を抽出するのが中間層だ。特徴量を抽出する際、より大量のデータを集め中間層を多層にすることで、特徴量の精度や汎用性を高め、予測精度を向上させる。

一方、レザバーコンピューティングは、中間層を溜め池(Reservoir:レザバー)にして計算を回し特徴抽出を行う。大量データの学習により、特徴抽出機能を強化する必要がないのがディープラーニングとの大きな違いだ。学習時に必要なデータ量や計算力を大幅に節約できる。

ただ、レザバーコンピューティングは、ディープラーニングと比べて精度があまり高くないことが課題とされていた。しかし、QuantumCoreは、独自技術を活用することで、ディープラーニングを上回る精度を実現しているという。

同社は昨年6月、このQoreシリーズ向けに、60GHz帯のミリ波レーダーなど電波系センサーを用いて、非接触で人物や物体の認識などを行えるソリューション「RD Qore」のPoC 提供を開始した。

一般的に、空間に放射された電波は、2つ以上の伝搬経路を経て多重に受信される。「マルチパス」と呼ばれる現象だ。

電波センサーの場合、送信された電波が受信センサーに到達するまでに様々な経路を経由することで、干渉や遅延ノイズにより歪められた反射波が遅れて到達し、正確な測位が難しくなる。

RD Qoreは、マルチパスを経由した波形データを前処理とレザバーコンピューティングで元の波形を考慮した補正処理を行う独自技術「Qore Pre-Processor」により、様々な環境下でも高い分析精度を実現することが可能だ。ちなみに、60GHz帯を利用する理由について、「周波数は高いほど分解能が高く、細かいところまで波形を取ることができる」とQuantumCore 代表取締役CEOの秋吉信吾氏は説明する。

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