IoT/M2Mカンファレンス2014 講演抄録3年後も使えるIoT/M2Mシステムは、APIを使った組み立て可能性が鍵

日本アイ・ビー・エムの鈴木徹氏は2014年10月3日に都内で開催されたIoT/M2Mカンファレンス2014で講演の席に立ち、IoTをビジネスに活用するためにどのような仕組みを構築すべきかという方向性を示して見せた。デバイスとシステム、システム同士をAPIを使って疎結合することがなぜ必要なのか、どのようなメリットがもたらされるのかが、事例を交えて語られた。

「『現場の気付き』をビジネス化できる組み立て可能なIoTシステム」と題する講演で登壇した日本アイ・ビー・エム ソフトウェア事業の鈴木 徹氏は冒頭、ITに期待される効果が変わり始めていると語り始めた。

「かつてITに求められていたのは、人間がやってきたことの効率化によるボトムラインの出費抑制でした。しかし今は、ITを使っていかにトップラインの成長を促進できるかという点に注目が集まっています」

ボトムラインの出費を抑制するためには、巨額の投資を行ない、長期間のプロジェクトが組まれ、標準化された大規模なシステムを構築していた。初期投資は大きくとも、数年単位ではそれを上回るコスト削減効果を得られる。

IoT/M2Mに期待されるのはトップラインの成長促進

一方でいま注目されているトップラインの成長促進とは、コストを削減するのではなくITを使って新しいビジネスを生み出し、利益を増加させようとする取り組みだ。IT予算の範囲で短期間にビジネスでの成果を上げる。効果を出すのは数年後ではなく、数週間か数ヵ月以内だ。

このような変化の背景にあるのがIoT、モノのインターネットだと、鈴木氏は語る。

「数十億のスマートなセンサーやデバイスがインターネットにつながります。もちろん、つながるだけで話題になっている訳ではありません。つながったものをどう使うか、そこが問題です」

使い方のポイントは、大きく2つある。1つは、モノを通じて現場の知見やビジネス化への視点を活かすこと。もうひとつはセンサー、デバイスとのリアルタイムかつ双方向の通信により新たな価値を創出すること。そうしたポイントがわかる例として鈴木氏が紹介したのが、欧州の自動車業界でのIoTビジネス化事例だ。

欧州のある自動車メーカーはIoT技術を使い、自社の自動車を常にオンライン状態にし、運転状況などをモニタリングできるようにした。そこで集められたデータを活かすため保険会社と提携し、運転に合わせて値引き可能な保険商品を開発したのだ。

「消費者は安全運転をするほど保険料を値引きしてもらうことができ、保険会社は保険契約が増え、自動車会社は自動車を売れるという、Win-Win-Winの構図がここにはあります。そしてこの成功を支えているのが、SoRやSoEをIoTとうまく結び付けている点です」(図表1)

図表1 相互に連携・補完し合うシステム
相互に連携・補完し合うシステム

鈴木氏が言うSoR(Systems of Record:記録のシステム)とは、CRMやERPなどこれまでにも使われてきた業務システムのことだ。そこには、ビジネスを支える知見が蓄積されている。欧州の例でいえば、運転態度と事故率の関係などがこれに当たるだろう。それを、IoTで得られるデータとうまく結び付けたことで、新たな保険商品を開発できたのだと鈴木氏は言う。

「これらをうまくつなぎ合わせていくことが、ビジネス化の鍵です。なぜなら、SoRにはその企業の強みが詰まっているからです」

ビジネス現場のトライを支える組み立て可能なシステムが必要

IoTをビジネス化するためにはリアルタイム、双方向でデータを送受信できるか、膨大な量のデータを処理できるかなど、いくつかのチャレンジが必要だ。その中でも重要なチャレンジが、組み立て可能性や開発柔軟性の確保だと鈴木氏は指摘した。(図表2)

図表2 「モノのインターネット」-ビジネス化へのチャレンジ
「モノのインターネット」-ビジネス化へのチャレンジ

「知見やデータを使用可能にしてビジネス化するためには、トライが必要。試して、やり直してを繰り返していかなければなりません。作り込んで完成したら変更が効かないというシステムでは困ります」

IoTでは使われるセンサーやデバイスの数が多く、進化も早い。スマートフォンのように、短期間で新しいデバイスが普及することも起こり得る。それらに対応し続けるためにも、状況に応じて要素を組み替えられる組み立て可能なシステムであることが望ましい。

ここまで語り、鈴木氏はごく安価なセンサーを使い、どのようにデータを集め、それをどのように業務に活かしていくかというデモンストレーションを行なった。使われたのは、IBMがクラウドで提供するIBM IoT Cloud Foundationと、テキサス・インスツルメンツ製のセンサータグ。業務現場で使われる機器に設置されていることを想定して、振動を検知させる。正常な動作とは違う振動を検知したら、異常が発生しているか故障の前兆であるとして、メンテナンスを呼びかけるというシナリオだ。

まずは、集まったデータをグラフなどで可視化すること。現場にとって使いやすくするためにも、経営者に効果を理解してもらうためにも、可視化は重要だと言う。

「データを集めるだけでは意味がありません。予測エンジンで故障を予知したり、基幹システムのアセットマネジメントと連携して交換業務を推奨したり、現場作業員にSMSで通知したりすることで、これまでになかった価値を生み出せます」(図表3)

図表3 「モノ」からの情報の可視化
「モノ」からの情報の可視化

そう語りながら鈴木氏は、手元のノートPCを使ってその場でデータを分析し、異常検知時の処理を定義して見せた。この手軽さが重要なのだという。

「IT部門に依頼して作ってもらうのではなく、ビジネス部門の人がアイディアを自分たちで試せる仕組みが必要です。システムの構築自体をアジャイルにして、現場の知見を試せるようになれば、スピード感と発想の豊かさがビジネスの武器になります」(図表4)

図表4 直観的なツールを使った柔軟なロジックの開発
直観的なツールを使った柔軟なロジックの開発

最適化すべきものはシステムではなくビジネスであると語る鈴木氏。ビジネス部門が自ら試行錯誤し、アイディアを活かすための最適な組み合わせを見つけ出す。IT部門は、ビジネス部門が見つけた最適な組み合わせをシステムとして実装していく。ビジネス部門とIT部門の役割分担も変わってくるだろうと鈴木氏は予見する。

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