通信キャリアの動きとその基盤となるクラウド/ビッグデータ技術の活用が焦点となった。【第12回次世代ネットワーク&サービスコンファレンス】リアルビジネスとの連携に踏み込む通信キャリア

通信キャリアのサービスとそれを支えるネットワーク基盤を技術・ソリューション面から論議する日本では数少ない専門イベント「第12回次世代ネットワーク&サービスコンファレンス」が開かれ、今回は、LTE、LTE-Advancedへの取り組みと、コマース・決済分野などリアルビジネスへの進出を加速させるO2Oへの取り組みを中心に様々な提起が行われ、多数の来場者で盛り上がった。

12月5日、東京・秋葉原UDXで「第12回次世代ネットワーク&サービスコンファレンス」が開催され、400名ほどの通信事キャリア、放送事業者、CATV事業者、ISP、データセンター事業者、ネットワークベンダー、ネットワークインテグレーターなどの参加で盛況だった。このイベントは通信事業者のサービス戦略とそれを支えるネットワーク基盤を軸に、通信市場の方向性を探ろうとするもので、毎年、テーマを決めて開かれている。

専門コンファレンスAコース「サービス/ビジネス戦略コース」は、総務省情報通信国際戦略局情報通信政策課長の渡辺克也氏の挨拶で幕を開けた。渡辺氏は「世界に類を見ない最先端のインターネット、モバイル環境を構築した日本のICT業界が、今非常に厳しい状況に置かれている」とした上で、「これからはグローバルな視点で、ICT社会実装――ICTの仕組みを我々の生活にどう組み込んでいくかという観点からの対応が必要だ」と指摘。情報通信審議会が7月の答申で打ち出した「アクティブ・ジャパンICT戦略」を説明し、ICT活用で日本再生の意義を訴えた。

総務省 情報通信国際戦略局情報通信政策課長 渡辺克也氏
総務省 情報通信国際戦略局情報通信政策課長 渡辺克也氏

次いで、基調講演に、NTTドコモ代表取締役副社長の岩﨑文夫氏が立った。岩﨑氏は、「新たな成長に向けたドコモの取り組み」と題して、ドコモの端末・ネットワーク戦略について述べた上で、ドコモが展開するクラウドサービスへの取り組みを、(1)「dマーケット」、(2)インテリジェントサービス、(3)ストレージの3分野に分けて説明した。

NTTドコモ 代表取締役副社長 岩崎文夫氏
NTTドコモ 代表取締役副社長 岩﨑文夫氏

「dマーケット」はドコモが2011年11月に開設した、直営のコンテンツマーケットだ。月額525円で5000タイトルのビデオが見放題になる「VIDEOストア」などの魅力のあるサービスを、クレジットカード番号や住所などの入力を必要としない利便性と合わせて提供することで、売上を大きく伸ばしている。12年12月には、日用雑貨やドコモの子会社であるらでぃっしゅぼーやの有機野菜などを扱う「dショッピング」を新たにメニューに加え「物販事業」にも本格参入している。

岩﨑氏は、この取り組みを通じて、モバイルとリアルの相互送客などを実現。さらにはドコモIDやドコモ口座などの仕組みを活用することで、「ドコモユーザーでないお客様にもご利用いただけるようにしていきたい」と、この新たなビジネスに意欲を見せた。

インテリジェントサービスの分野では、「しゃべってコンシェル」や「しゃべって翻訳」などが好評を博しており、他社に対するドコモの大きな差別化ポイントとなるという考えをしめした。

ストレージ分野では、クラウドにデータを置くことで、マルチデバイスでの利用にも対応できる新メールサービスを13年1月に開始するなど、スマホ/タブレット時代に向けドコモがサービスのフレームを大きく変えつつあることが示された。

岩﨑氏は、さらに事業のグローバル展開にも言及。その軸足を通信サービスからコンテンツ配信などの上位レイヤのプレイヤーに移していると述べた。イタリアの大手コンテンツ事業者、ボンジョルノの買収などを通じて世界規模のコンテンツ配信プラットフォームを整備することで、「アニメやマンガなど、世界に誇れる日本のコンテンツが世界で成功できるビジネスモデルを作り上げたい」と意欲を見せた。

午後、登壇した、ソフトバンクモバイル常務執行役員の喜多埜裕明氏は、同社の経営・サービス戦略を解説した。喜多埜氏は2012年3月までYahoo! JAPANのCOOを務め、現在はソフトバンクのモバイルコンテンツ戦略を担当している。

ソフトバンクモバイル 常務執行役員 喜多埜裕明氏
ソフトバンクモバイル 常務執行役員 喜多埜裕明氏

喜多埜氏は、LTE及び900MHz帯のインフラ整備の状況や10月に発表した米スプリント・ネクステルの買収などについて述べた上で、同社のコンテンツ・コマース事業の方向性を解説した。

タブレットの普及などに伴い市場拡大が見込まれる動画コンテンツ分野にソフトバンクも力を入れているとして、(1)エイベックスとの提携により12年12月からスタートさせた月額490円で6万本以上のミュージックビデオや音楽のライブ映像、映画、ドラマなどが見られる「UULA」(ウーラ)や、(2)自宅のテレビに簡単に映像サービスが受けられる「ソフトバンクTV」などの取り組みを紹介した。

また、Yahoo! とソフトバンクの事業連携についても、月額399円の有料サービスYahoo! プレミアムのスマートフォン向けコンテンツを拡充、会員数を増加させるなどの取り組みが成功をおさめているとした上で、ソフトバンクにもその収益の一部が還元されるようなビジネスモデルをとっていることを明かした。

最後に2012年に5月に発表したソフトバンクと米PayPalとの合弁会社「PayPal Japan」による、スマートフォンを活用したクレジット決済サービス「PayPal Here」がすでに試験サービスの段階に入っていることを明らかにした。これはiPhoneなどのスマートフォンに親指大の安価なカードリーダーを挿し、 決済端末として利用できるようにすることで、これまでコスト面で導入が難しかった店舗など小規模事業者が容易にクレジットカード決済を導入できるようにす るもの。

さらに、喜多埜氏は「スマートフォンを持っていれば、クレジットカードなしでも決済ができるしくみも考えている」という。「チェックイン」機能の活用で、ソフトバンクでは新しい仕組みを大々的に展開し、リアルビジネスとネットワークを連携させた新ビジネスを展開していく考えだ。

喜多埜氏は、「その際には多様な顧客情報をうまく活用していくが非常に重要になってくる」と指摘、ビッグデータの活用に意欲を示した。

ドコモ、ソフトバンクの講演の他に、「サービス/ビジネス戦略コース」では、グローバルにネットワーク市場を牽引するITベンダーの米ヒューレット・パッカード、日本アイ・ビー・エム、日本オラクルがそれぞれ、自社のクラウド/ビッグデータソリューションを通信キャリアのサービス・ビジネス、ネットワークにどう生かしていくかという立場で講演を行った。

またパロアルトネットワークスは、形骸化が指摘されている現行のファイヤウォールに代わる次世代製品を紹介。NECは、SDN/OpenFlowの技術動向と、これを事業者の収益に生かすため方法論について詳細に述べた。

並行して行われたBコースの技術セッション「最新テクノロジー&ソリューション・コース」では、(1)日本コンピュウェアがアプリケーションパフォーマンス管理(APM)、(2)ノキア シーメンス ネットワークスがLTE/LTE-Advancedの技術動向、(3)エンピレックスがVoLTEにおける障害監視、(4)エリクソン・ジャパンがキャリアグレードWi-Fiをテーマに講演を行った。

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