写真:Marina Tikhoplav / iStock
有線を使わず10m以上離れた場所に給電する「空間伝送型ワイヤレス電力伝送システム」は、マイクロ波を用いる電磁波方式が2022年5月、電波法の一部改正により実用化された。
同方式には、レーザー光を使って給電する光無線給電もあることをご存知だろうか。
光無線給電は、光源から出射した光を空間に伝搬し、受電側の太陽電池で電気エネルギーに変換して給電を行うというもの(図表1)。光も電磁波の一種であり、電磁波を空間内に放射するという点で、マイクロ波による給電と仕組みは同じだ。
図表1 光無線給電のシステム構成
この光無線給電の歴史は古く、レーザーや太陽電池が発明されて間もない1970年前後に提案された。しかし研究開発は盛り上がらず、2010年代前半までの論文件数は年間10~30件にとどまっていた。その後、情報端末の普及などでワイヤレス給電に対するニーズが高まるとともに、レーザーや太陽電池の改良が進んだことから注目されるようになり、研究開発も活発化している。
高い直進性で長距離伝送を可能にする光無線給電
光には紫外線や可視光線、赤外線があるが、周波数でいうと3000GHz(3THz)~300万GHz(3000THz)の範囲だ。
「マイクロ波の給電で使用する920MHz、2.4GHz、5.7GHzと比べると数ケタの差があり、これが空間における広がり方に違いをもたらす」と東京工業大学 科学技術創成研究院未来産業技術研究所 准教授の宮本智之氏は説明する。
東京工業大学 科学技術創成研究院
未来産業技術研究所 准教授 宮本智之氏
電磁波は周波数が低いほど回折(進行する波動が障害物の影に回り込んで伝わる現象)により隅々までカバーでき、高い周波数ほど直進性が高く、障害物の影響を受けやすい。通信用途では短所となるこの特徴が、ワイヤレス給電では長所になる(図表2)。
すなわち「光はマイクロ波のように回り込まないため、長距離を伝搬してもビームの広がりが小さく、給電効率が低下しづらい」(宮本氏)。
図表2 無線給電の給電距離イメージ
加えて高い周波数は波長が短い分、装置を小型化しやすいというメリットもある。これにより、10m四方の送電装置から、1km先にある同サイズの受電端末に給電することが可能という。
光無線給電は他の無線給電と違い、交流や高周波電波の放出がないため、電磁波ノイズへの配慮を簡易化できるという特徴もある。
またレーザー光は、図表や文字を指し示すレーザーポインター、CD/DVD、金属加工などに実用化されており、一般市場に出回るレーザー出力器の出力範囲は数mW~数十kW。太陽電池の効率は30~50%なので、この光を太陽電池にすべて照射できるとすれば、数mW~数kW以上の電力を利用できることになる。
このため、IoTセンサーや体内埋め込み型デバイス、スマートフォンやタブレット、家電や産業・医療機器、電気自動車、ドローン、ロボットなど幅広い用途に利用可能だ。
「既存のワイヤレス給電では十分にカバーできない、比較的長距離・大電力の機器・装置への給電にも適している」と宮本氏は話す。
例えば電気自動車の場合、有効伝送距離が数十cm程度の近接結合型ワイヤレス給電技術を応用し、道路の下に埋め込んだ給電装置と、走行中の自動車に搭載した受電装置との間で発生するエネルギーを利用して送電する方法が検討されている。
走行中に給電を行えるようになれば、バッテリー容量の最小化や走行距離の向上につながると期待されているが、道路には送配電線やガス管などの設備が埋め込まれており、それらの機能を損なわず一定の距離に敷設するのが難しいといった問題がある。
その点、光無線給電は「長距離をカバーできるので数十~数百m間隔で送電装置を設置すればよく、道路照明灯に搭載するなど、より負担の少ない方法が採れるのではないか」と宮本氏は指摘する。
また、マイクロ波による空間伝送型ワイヤレス給電は将来的に、災害で送電線などの電源インフラが被害を受けた際、遠隔から大電力の送電を行い、復旧作業や救助活動に利用するという用途も想定されている。光無線給電であれば、より小型の装置で送受電を行えるので、ヘリやクルマを使わず人間が現地まで運ぶこともできる。