省力化とマルチベンダー構成で選択BIGLOBEが仮想化にあたり採用したのが、NEC製の「仮想化MVNOソリューション」だ。
同ソリューションはオープンソースをベースとしたMANO(Managementand Network Orchestration)により、共通のOpenStack上で動作する各ノードを自動制御することを特徴とする。
MVNOの仮想化を実現するソリューションは様々なベンダーから提供されているが、NECのソリューションを選んだのには2つの理由がある。
1つめが、少人数で運用できる機能が揃っていることだ。
MVNOは、MNOと比べると社内エンジニアの数が圧倒的に少ない。BIGLOBEのエンジニアの多くは、インターネットや固定など他のサービスも兼任しており、モバイル専任の社員はわずか数名だ。「エンタメフリー・オプションはシステム構成が複雑で監視作業もあるため、数名で回していくのは難しい。NECのソリューションなら省力化できると考えた」と黒川氏は説明する。
2つめに、仮想ネットワーク機能(VNF)をマルチベンダーで構成できることだ。
一般的に、仮想化の要素技術はマルチベンダー構成が採れるようETSI(欧州電気通信標準化機構)で標準化されているが、実際には管理の容易さなどから、シングルベンダーでソリューションを提供する傾向にある。
エンタメフリー・オプションは、対象となるアプリケーションをネットワーク内部で識別する機能や通信量を管理する機能、通常の料金プラン(ギガプラン)の対象に含まれないように制御する機能などが必要であり、NECのソフトウェアだけでカバーすることは難しい。
「NECのソリューションは他社のソフトウェアを導入でき、しかもそれらを一元管理できる点が決め手になった」と黒川氏は話す。
スライシングで最適なNWを選択仮想化による成果として、故障発生時の緊急出動が年間10回程度から、3回(構築段階およびサービス開始前の試験期間を含む)と約7割削減された。
専用ハードウェアのときは現地に駆け付けて予備機に交換していたが、作業が完了するまでの間、冗長機能が失われサービスが停止するリスクがあった。それが仮想化により、ソフトウェアを予備サーバーへ自動または手動で移動するだけでサービスの継続性が担保され、現地に駆け付ける必要もない。また、汎用サーバーを使っているため、メンテナンスはリモートから半年に1回で済むようになった。
折しも仮想化の構築段階で新型コロナウイルスの感染が拡大し、外出自粛を余儀なくされたが、自宅やオフィスからデータセンターにリモートアクセスし、当初のスケジュール通りにプロジェクトを進めることができたという。
ネットワークスライシング技術の導入も成果の1つだ。
サービス要件や用途に応じてネットワークを仮想的に分割するネットワークスライシングは5Gの要素技術だが、BIGLOBEではこれを応用し、LTEのMVNOモバイルコアネットワークに適用することに成功した(図表3)。これにより、ネットワークを用途ごとに論理的に分割し、スライス選択機能(SSF:Slice Selection Function)を用いて利用者のニーズに合わせた最適な構成のネットワークを選択することができる。
図表3 スライシング技術の導入
設備の増設もネットワークスライシングで容易になった。
スライスをコピーして増やすだけで、コアネットワーク側は対応できる。BIGLOBEの場合、エンタメフリー・オプションの利用者の増加に伴い設備を増強する必要性に迫られているが、サービスの特性に合わせてネットワークをスライス化しているので、MVNEや一般MVNO、VPNといったその他のサービスに影響を及ぼさずに増設が完了する。
また、新サービスの追加も、ソフトウェア更新だけで簡単に実現できるという。専用ハードウェアの調達や工事などが省略されるので、サービス開始までの期間が従来と比べて約3カ月短縮できる。
エンタメフリー・オプションの品質維持のための機能も自動化された。将来的には、AIを活用したリアルタイム分析や自動通信制御によるサービス設計や検証の自動化も予定しているという。
ただ、必ずしもメリットばかりではない。
「専用ハードウェアであれば、故障した際に単一の機器を確認すればよかった。しかし仮想化したことで、ハードウェアとソフトウェアの構成が複雑になり、一定のノウハウがないと原因切り分けが難しい」とBIGLOBE コンシューマ事業本部 サービスプラットフォーム推進部 副部長の猪俣圭嗣氏は指摘する。性能を最大限発揮するためのチューニングにもノウハウが求められるという。
BIGLOBE コンシューマ事業本部 サービスプラットフォーム推進部 副部長 猪俣圭嗣氏