「地域情報化はSDGs貢献」早大・三友教授に聞く、地域から始める日本のICT国際展開

5G時代、ICTは地域の様々な課題を解決できるのか――。地域情報化に長年力を注いできた早稲田大学の三友仁志教授は、従来のやり方のままでは「日本はハッピーにならない」と訴える。必要なのは、地域情報化をICTビジネスの国際展開の「テストベッド」(実験台)と捉える発想。地域インフラの課題と通信政策の今後、地域情報化のあるべき姿を聞いた。

地域だからできるデジタル化――国際展開に値する地域情報化の実例をまず作る必要もあるかと思いますが、現状はスマートシティをはじめ、海外の方が先進事例は多いようにも見えます。

三友 中国は新型コロナウイルスの感染拡大の管理に成功しましたが、その陰にはあるアプリがありました。深センに出入りする人を管理するために元々作られたアプリが全国各地に広がったのですね。それと同時に国の方では、各地域のデータを一括管理するプラットフォームを作り、そのプラットフォーム上に各地域のアプリが乗りました。

中国の場合、市民に強制するところもあったわけですが、市民にもアプリを使うメリットはありました。デパートに入るとき、電車に乗るときなどに、そのアプリを通行手形のように使えたのです。自分は「濃厚接触していない」とすぐ分かり、市民に安心安全を提供しました。

日本にもCOCOAという接触確認アプリがありますが、COCOAはあまりにもプライバシーを気にし過ぎました。アプリのインストールも、陽性者登録するかも自由意志です。そのため、日本の陽性者数は2月19日時点で累計約40万人ですが、このうち1万人ほど、比率にして2.57%しかCOCOAで陽性者登録していません。残り97.43%の陽性者がアプリの網にかからないのですから、機能するはずがありません。

COCOAと同じく、個人情報を把握しないグーグル/アップルのAPIを利用した国は結構あります。しかし、AFP通信のコロナ対応ランキングの上位10位内に、グーグル/アップルのAPIを利用した国は1つも入っていません。

三友早稲田大学大学院教授

――プライバシーの問題をどうするかは、データ駆動社会の実現に向けて大きな課題ですね。

三友 日本の問題は、公益のために正しくデータを活用するためのコンセンサスがまだできていないことです。その一因としては、政府に対する信頼のなさもあるかもしれません。

データ駆動社会においてデータプラットフォームは決定的に重要ですが、その上で大事なのは人々の信頼(トラスト)です。トラストはデータ駆動社会において非常に大切なキーワードになるでしょう。

私が地域に期待するのは、地域にはそうしたトラストが残っているからです。

COCOAに関しても全国展開せず、中国のように地域ごとに活用していたら、もっとうまくいったと考えています。例えば、信頼ある首長が「みんなでアプリを導入して、地域の安心を守ろう」と呼びかけ、地域一丸となって取り組めば、感染者が出たときに追跡調査しなくても、アプリだけで濃厚接触者がかなり分かるわけです。

――地域でやるからこそ可能なデジタル化があるわけですね。

三友 地域にまだ残っているコミュニティ、人と人の目に見えないつながりとICTが上手に結び付くと、いろいろなことが実現できると私は思っています。

月刊テレコミュニケーション2021年4月号から一部再編集のうえ転載
(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

三友仁志(みとも・ひとし)氏

神奈川県生まれ。専修大学教授、早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授、Stockholm School of Economics 客員教授、Aalto大学(フィンランド)客員教授等を経て、現職。博士(工学)。情報通信学会会長、International Telecommunications Society 副会長、早稲田大学デジタル・ソサエティ研究所長、総務省 情報通信行政・郵政行政審議会委員、情報通信審議会専門委員、総務省 地域情報化アドバイザーなど。専門分野はデジタルエコノミー、デジタルソサエティ論

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