「製造業IoTにおいて、エッジの役割は非常に重要」――。
こう話すのは、2016年からファナックと協業し、エッジコンピューティングを活用して工場の稼働率アップを実現する「FIELD System」の開発・実装を進めるなどスマート工場の取り組みで先行してきたシスコシステムズ イノベーションセンター長の今井俊宏氏だ。
IoT等を活用したデジタルトランスフォーメーションの取り組みは様々な業界に広がっている。なかでも動きが活発な製造業のIoT化にあたっては、エッジコンピューティングの特徴が非常に活きてくるからだ。
ビジネス現場で生まれるIoTデータをクラウドに集めて分析するのではなく、現場に近いエッジで処理するメリットは大きく次の3つに整理できる。①リアルタイムな分析・制御が行える、②データをローカルに留めてセキュリティを担保できる、③クラウドと現場間の通信コストを削減できることだ。
製造設備はリアルタイムに制御する必要があるうえ、セキュリティ要件が厳格で、コスト意識も強い。製造業のニーズに、エッジコンピューティングの利点は合致する。
画像解析でラインの異常を検知具体的な事例で見ていこう。
ハードディスクドライブ製造メーカーの米Seagateは、エッジコンピューティングを活用して画像解析を行っている。図表のように、生産ラインを撮影したカメラ映像をエッジで解析。ライン上の異常を検知すれば、即座に運用担当者へ通知する。
解析に用いられる画像の数は1日で44万枚にも及び、データ量は2TBに達するという。これをエッジでAI処理することでリアルタイムなレスポンスを実現している。また、AIの精度向上に役立つ精選データのみをクラウドに送信。クラウド上で深層学習/機会学習を行い、アップデートされたAI推論モデルを再びエッジに返すことで、現場での解析精度を継続的に高めている。
図表 Seagate社のユースケース[画像をクリックで拡大]
Seagateはこの仕組みを、ヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)が提供するエッジ向けコンピューター「HPE Edgeline EL4000」で構築した。「HPE Discover Forum東京」の講演でこの事例を紹介した日本ヒューレット・パッカード クラウドプラットフォーム統括本部 エバンジェリストの三宅祐典氏は、GPUを搭載したエッジ向けサーバーを用いることで「これまではデータセンターで稼働していたアプリケーションをエッジで動かし、OTをサポートすることが可能になった」と話す。
フィンランド北部のオウル市にあるノキアの工場では、作業員が行うはんだ付け等の作業の品質をカメラ画像で判定している。作業が的確に行われているかを工場内のエッジサーバーで判断し、誤った作業が行われていれば管理者に通知する。作業員ごとの品質の違いを無くし、生産効率を下げる原因を探すのが狙いだ。
また、同工場内では無人搬送車(AGV)を5Gで制御しており、作業に必要な部材が無くなりかけている箇所を検知すると、AGVが自動的に追加の部材を届けるといった運用も行っている。