2007年夏に米Sphere社を買収して以後、NECのロードマップに「次世代ユニファイドコミュニケーションプラットフォーム」として紹介されてきたSphereが、遂に市場に姿を現した。2009年5月8日、NECは満を持してユニファイドコミュニケーションソフトウェア「UNIVERGE Sphericall」の国内出荷を開始した。
数千のPBX機能を備える同社のUNIVERGE SVシリーズには及ばないものの、SphericallもIPテレフォニーシステムとして十分な数百のPBX機能を具備している。そのため、Sphericallを「次世代IP-PBX」あるいは「次世代SIPサーバー」として捉えたい気持ちもやはり起こってくるが、このような見方ではその本質は見えてこない。
NEC・企業ネットワークソリューション事業本部長の保坂岳深氏は、「我々が以前から提唱してきたIT・ネットワーク融合を本格的に進めるためのツールがSphericallだ。従来のUNIVERGEのような“電話”がベースのユニファイドコミュニケーションでは、どこかに無理が生じる」と話す。つまり、SphericallはPBXとは根本から発想が異なった製品である。
担う領域も従来のUNIVERGEとは大きく異なっている(図表1)。基本領域である“電話”は、今後もSVシリーズなどの担当領域だ。SVシリーズをリプレースしていく製品という位置付けではない。「業務ソリューションという、まったく別の領域を広げていくのがSphericallだ」(保坂氏)。
図表1 UNIVERGE Sphericallの位置付け |
それでは一体、Sphericallとは、どのような特質を有した製品なのだろうか。1つずつ解きほぐしていくことにしよう。
徹底的なオープン思想
外観からいくと、Sphericallは専用ハードウェアを持たない完全なソフトウェア製品である。Windows Server 2003 SP2または同R2が載った汎用PCサーバー上で動作し、CPUやメモリーなどの基本スペックを満たしていれば、NEC製以外のサーバーでも当然大丈夫だ。
つながる端末についても、この“オープン”な思想は貫かれている。PBXでは通常、自社製の端末にしか基本的にはつながらない。だが、標準SIPを採用するSphericallでは、他ベンダーの端末とも容易に接続できる。
IPテレフォニーベンダーにとって電話機などの端末は、言うまでもなくきわめて重要な収益源だ。保坂氏も「正直、我々の端末が売れなくなるので厳しい面はある」と話す。また、機能数で見ても、ベンダーが独自に拡張したSIPのほうが標準SIPよりも優れている。にもかかわらずオープン化を図ったのは、Sphericallが実現したい世界において、それが不可欠だったからである。
ユニファイドコミュニケーションが目指すのは、固定電話機、PC、携帯電話、スマートフォンからハンディターミナル、POS、キオスク端末、受付システム、テレビ会議システムなど、多種多様な端末による統合コミュニケーションが実現された世界だが、当然これらの端末は1社のベンダーにより提供されるものではない。“自社端末”にこだわれば、できあがる世界は小さなものになってしまう。
多種多様な端末といかに簡単につながるようにできるか――。これがSphericallの有用性を大きく左右するのであり、それゆえの標準SIPの採用でありオープン化なのだ。