2004年の発売から5年、シスコシステムズのサービス統合型ルーターが第2世代へと進化した。同社は2009年10月21日、「Cisco ISR G2(Integrated Services Routers Generation 2)」シリーズを発表した。
1台でIP-PBXやセキュリティといったさまざまな機能を実現できる、支社・支店などブランチオフィス向けのルーター製品であるISR。これまでに全世界で700万台以上売れたというが、第2世代になって何が進化したのだろうか。
Cisco ISR G2ファミリー。左上は1900シリーズ、左下は2900シリーズ、右下は3900シリーズ。右上は既発売の800シリーズ |
性能は最大5倍に向上
5年ぶりの新製品とあって、まずはパフォーマンスが大幅に向上した。マルチコアのネットワークプロセッサの搭載などにより、その性能は第1世代と比べて最大5倍に。また、シスコの調査ではビジネス向けビデオの導入率は2012年までに77.6%までに高まると予測されているが、テレプレゼンスやビデオストリーミングなどのサポート強化のため、ビデオ対応DSPの内蔵も可能になった。
搭載するOS、IOSにも大きな変更があった。G2ではユニバーサル・イメージ方式のCisco IOS 15.0(1)Mを採用。第1世代では複数の異なるトラックのIOSが提供され、例えばISRの導入後にIP-PBX機能を追加するには、新しいIOSイメージをダウンロードする必要があった。だが、G2ではIOSは1つの共通イメージとなっており、ライセンスキーを入力するだけで迅速にサービスを展開できる。
このほか、IOS 15.0(1)Mでは多くの機能が追加されたが、その1つがCisco Performance Routingだ。これは、網内の状況(到達可能性、遅延、ジッター、スループットなど)を自動検知し、音声、ビデオなどのアプリケーションごとの特性に応じて、複数のWAN回線から最適なルートを選択できる機能だ。こうしたダイナミックなルート選択はルーティングプロトコルの設定でも不可能ではないが、非常に困難だった。
図表1 ISR G2の新機能 | ||
Cisco ISR |
Cisco ISR G2 |
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ネットワークプロセッサ | シングル | マルチコア(将来の拡張性あり) |
サービスモジュールのパフォーマンスとキャパシティ | 1X、ストレージ160GB | 最大7X、デュアルコア、ストレージ1TB |
オンボードDSP | 音声のみ | 音声およびビデオ |
スイッチモジュール | Catalyst 3750ベースのファストイーサネットとPoE | Catalyst 3560E/2960ベースのギガビットイーサネットとenhanced PoE |
サービス配信 | ハードウェア結合 | サービス オン デマンド |
冗長性 | シングルマザーボード | フィールドアップグレード対応マザーボード |
エネルギー効率 | EnergyWise | EnergyWiseおよびスロットベースの制御 |
オンデマンドでサービス追加
G2の最大の目玉といえるのは「Services Ready Engine」(SRE)の採用である。SREはコンピューティングとストレージが統合されたサービスモジュール。従来のサービスモジュールと大きく変わったのは、ハードウェアとソフトウェアが切り離されている点だ。第1世代では、特定のサービスを実現するには特定のハードウェアを追加する必要があった。しかし、SREではハードウェアとソフトウェアが分離されているため、あらかじめISRにSREを組み込んでおけば、オンデマンドで後から必要なサービスをリモートから導入できる。つまり、現地作業なしで各ブランチオフィスに新しいサービスを展開できるのである。
現在、SREで利用可能なサービスには、WAN最適・高速化、無線LANコントローラー、IPS、ボイスメール/IVRなどがある。今後、ビデオレコーディングやWindows Serverなども提供される予定だ。
また、「Cisco Application Extension Platform」(AXP)というLinuxベースのアプリケーション実行環境も用意され、シスコだけでなくサードパーティベンダーが開発したアプリを利用できる。現時点で日本で利用可能なAXP上で動作するアプリケーションとしては「BX-Office」がある。これは照明・空調の制御、電力使用量の測定・表示を可能にするシスコ製のアプリである。
AXPについては、仮想化に対応し、1つのSREモジュール上で複数のAXP対応アプリを動作させられる点にも注目したい。現在のところ、AXP以外では1つのSREモジュール上で1つのサービスしか動かないが、将来的にはこちらも仮想化に対応させる計画だという。
SREのモジュールには「Internal Service Module」(ISM)と「Service Module」(SM)の2種類がある。ISMはCPUはシングルコア、512MB RAMと4GBフラッシュを搭載。一方、SMはCPUはデュアルコアでRAMは2~4GB、さらに500GB~1TBのHDDを搭載する。
ドコモの3Gも搭載可能
SRE以外には、以下のモジュールが今回新たに用意された。
「HWIC-3G-GSM」は3G端末として動作するワイヤレスLANモジュールで、NTTドコモの定額データ通信プランに対応する。「PVDM3」は前述した音声だけでなくビデオにも対応したDSPだ。さらに、Catalyst 3560-Eおよび2960シリーズのスイッチと同等の機能を有する「Enhanced EtherSwitchサービスモジュール」も提供され、ギガビットイーサとポート当たり最大20Wの給電が行えるenhanced PoEを新たにサポートした。
また、G2は、同社の電源管理プラットフォーム「EnergyWise」への対応に加え、スロット単位の電力制御機能を搭載。USBによるコンソール設定も初めてサポートした。
G2のラインナップは1900/2900/3900の大きく3シリーズに分かれる。小型の1900シリーズは802.11n内蔵モデルも用意。IP-PBX機能の「Cisco Unified Communications Manager Express」(CME)と、セントレックス型のCMEで障害が発生した際にテレフォニー機能を一時的に提供する「Cisco Survivable Remote Site Telephony」(SRST)をサポートするのは2900シリーズからだ。ハイエンドの3900シリーズは、将来の拡張ニーズに合わせてマザーボードがアップグレード可能なほか、統合された冗長電源にも対応している。