無線LANの導入・運用形態は多様化している。
基本的な形態は、(1)無線LAN APを単体で稼働させる自律型、(2)複数の無線LAN APを無線LANコントローラで集中管理するコントローラ型の2つだが、現在は、(3)無線LAN APにコントローラ機能を搭載し、「親AP」が他の「子AP」を管理する形態も増えてきている。
(3)は、無線LANコントローラ装置を導入せずに、複数の無線LAN APで共通の設定を適用したりできるため(ただし(2)に比べると管理可能なAPは少なく、管理機能も制限される)、中堅中小企業に適した形態と言えるだろう。
また、(2)のコントローラ型についても形態が変化している。従来は拠点ごとにコントローラを設置していたが、拠点数の多い企業では、「最近はデータセンターに大容量のコントローラを設置して、WAN越しに複数拠点の無線LAN APを集中管理する形態が増えてきた。当社の案件でも3割程度はある」とネットワンシステムズ・経営企画本部第1応用技術部スイッチワイヤレスチーム・エキスパートの中野清隆氏は話す。
「機器費用とライセンスコストが下がり、管理ポイントも少なくなる」のが利点だ。
注目集める「クラウド型Wi-Fi」
もう1つ、新たな形態として注目されるのが「クラウド型Wi-Fi」だ。無線LANコントローラ機能をクラウドで提供するサービスで、ユーザー企業は無線LAN APのみを拠点に導入する。
図表1 従来型の無線LAN システムとクラウド型Wi-Fiの比較[画像をクリックで拡大] |
図表2のように大手通信事業者がサービスを行っているほか、NECネッツエスアイや日立システムズ等のSIerも同様のサービスを手がけている。
図表2 APをレンタルで導入できる主なクラウド型Wi-Fiサービス[画像をクリックで拡大] |
クラウド型Wi-Fiの利点は、導入時に無線LANコントローラの導入・設置が不要なこと、運用管理をサービス事業者に任せられることだ。また、利用料は無線LAN AP数に応じて課金されるため(無線LAN AP自体は、サービスによって購入する場合とレンタルで利用する場合がある)、複数拠点への展開や無線LAN APの増設が容易になる。
反面、複数企業で無線LANコントローラ機能を共用するため、オンプレミス型と比べて機能が制限され、カスタマイズもできない。また、初期投資は抑えることができるが、長期間利用する場合は月額料金の累計額が、オンプレミス型で導入した場合のコストを上回ることもある。運用管理コストも含めた総コストで適切に比較することが肝要だ。
したがって、高度な機能を必要としない中堅中小企業や、多数の拠点を持ち、各拠点にIT管理者を置けない企業、拠点や無線LAN APの数を柔軟に変更したい場合などに適していると言える。多店舗展開の流通小売業などは、まさに典型例と言えるだろう。
NECネッツエスアイ・キャリアソリューション事業本部サービスプラットフォーム事業部モバイルワイヤレス基盤技術部・担当の越後智明氏は、「お客様のシステム管理部門には、無線LANの仕組みやセキュリティ対策等をよく理解されている方が少ない。そのため、『クラウド型で全部管理してもらえるのが良い』と、そのメリットを評価していただいている」と話す。
無線LANの運用管理には、電波障害の対応をはじめ、有線LANとはかなり異なるノウハウが要求されるため、運用管理をアウトソースできるメリットが受けているようだ。
同社はオンプレミス型の提案ももちろん行っているが、「最初からクラウド型で提案してほしいとリクエストされる案件もある」という。今後、無線LAN導入の有力な選択肢となりそうだ。