「中途半端では意味がない」
今回の整備計画は、音声系システムだけを見ても、庫内の全拠点、さらにSISにもUNIVERGE Aspire Xを新規導入し、総数で450台程度となる電話機もすべて入れ替えるという大規模なものとなった。導入コストは決して小さくないが、全拠点一斉に新システムへの移行を実施した、その理由は実に明快だ。
「中途半端が一番良くない。それでは導入効果が鈍る」(森谷氏)
当然、従来の交換機を一部残したとしても拠点間内線のIP化は可能だ。そうした提案も、NECインフロンティアからは実際になされていたという。
「だが、使い勝手や業務効率を考えれば、すべてリプレースしたほうがいいことは明らか。現状よりも向上しなければ導入する意味がない。トップも、コストに見合った効果が出せるのであれば投資は厭わないという意向だった」(同氏)
新システムでは、実に多くの効果が見込まれている。回線の高効率運用が実現されたことはもちろんだが、最も大きいのはやはり通信コストの削減効果だ。
従来はすべて公衆網を利用していた拠点間の通話料は月額約130万円減、FAX回線料は月額10万円減。ATMガイドホンや映像監視に必要な回線利用料等も含めると、通信コストの削減効果は月額250万円にもなる(図表2)。
図表2 新システムへの移行による経費削減効果 |
全拠点の内線番号体系を一新することで、業務効率も大きく向上した。
飯能信用金庫の業務では、そもそも拠点間の通話が頻繁に行われていた。そのため、従来は拠点の代表番号を経由せざるを得なかったものが、各職員を内線番号で直接呼び出せるようになるだけでも、その効果は大きい。
実際に内線番号計画の策定に携わった事務管理部主任・沼田祥宏氏も、「営業時間外には別の番号を用いるなど、これまで拠点間の通話には煩雑な要素が多かった。細かな部分にも不満が絶えなかったが、新システムではそれらがすべて解消され、ストレスはまったくなくなった」と成果を語る。
外部サービスにも革新促す
各拠点だけでなくSISとの間も同一IP網で接続している点も、新ネットワークの大きなポイントだ。
SISの存在からも明らかなように、ガイドホン受電や映像監視等を外部のサービス事業者に委託する金融機関は多い。本事例の施工を担当したNECインフロンティアによれば、数十ある支店ごとにサービス事業者との間にISDN回線を1本ずつ引くといった例も未だ少なくないという。
その意味では、飯能信用金庫の今回の取り組みはパイオニア的な事例とも言える。新システムの稼動後、ガイドホンの音質や監視カメラの画質の向上を実感したことで、SISの評価も上々という。
現在は、一部を除きガイドホン主装置の耐用期間が経過した拠点から順次、ガイドホン端末のUNIVERGE Aspire Xへの直収を進めている。これにより、コールセンター業務も大きく変化しそうだ。
従来は、ガイドホンの受電時にコールセンターが判別できたのは、発信先の拠点のみだった。だが、今後は発信先の端末まで確認できるようになる。映像監視システムと連携することで、トラブル発生時に相手の姿や状況を確認しながら通話することも可能だ。顧客サービスの質は自ずと異なってくるはずである。
「新システムには非常に満足している。計画当初からさまざまなサービスの導入、既存システムの移植を想定し、各担当者が悩みぬいた結果が、完成度の高さにつながった」
森谷氏は担当職員の労をねぎらいながら、そう満足感を口にする。
妥協せず、費用対効果の最大化を追求する――。経営陣から各担当レベルまで貫かれた、その方針が結実したからこその一言と言えるだろう。
他拠点からも内線番号によるダイレクト呼出が可能になった。通信料削減に加え、業務効率化の効果も大きい |