FTTHに速度で対抗する5G FWA
エリクソンが2023年11月に発表した「エリクソンモビリティレポート」によると、全世界のモバイル通信事業者の約8割がFWAサービスを提供し、5G FWAサービスを提供しているのはその5割にあたる121社だ。
レポートでは、2023年末には世界中のFWA接続数は1億3000件に達しており、2029年末には、固定ブロードバンドの18%に相当する3億3000万件に増加、このうちの85%が5Gベースになると予測している。南アジアやアフリカなどの新興国がFWA市場を牽引する。
一方、日本はどうだろうか。総務省が公表した、2023年3月末時点の光ファイバーの世帯整備率は99.84%に及ぶ。国内のほとんどの地域でブロードバンドを利用する際の第一の選択肢が光ファイバーであることは、利用の容易さ、速度、コスト等の面において疑われていなかった。
しかし、その常識は変わりつつある。
ソニーワイヤレスコミュニケーションズは2022年4月、「NURO Wireless 5G」の提供を開始した(図表1)。ローカル5Gを利用した住宅向けFWAサービスとして、日本のFWA市場において独特の存在感を示している。
図表1 ソニーワイヤレスコミュニケーションズ「NURO Wireless 5G」概要
同サービスがターゲットとするのは、光回線を利用できない集合住宅の住人だ。築年数の古いマンションなど、建物自体には光回線が到達していても、各戸には電話線を用いて分配するVDSL方式を利用せざるを得ない物件もいまだ少なくない。VDSL方式は理論上の最大速度が100Mpbsであり、実測値はこれに届かない。
「VDSLなどを使用するユーザーに新しい選択肢を与えたい」と、ソニーワイヤレスコミュニケーションズ 事業開発1部 マーケティングコミュニケーション課 統括課長の中山直哉氏は話す。
NURO Wireless 5Gでは、集合住宅などの特定の建物や敷地内をローカル5Gエリアとし、専用ネットワークを構築する。ユーザーはホームルーターを窓際など感度が良好な場所に設置し、無線LANもしくは有線で利用する。
同社には、過去に利用していた回線より速くなったというユーザーの声が多数届いているという。同社 事業開発1部 ローカル5G開発課 統括課長の加藤圭氏は「高速回線を使いたいが使えないというユーザーが多く、用途として想定より多く驚いたのがゲーム」と、利用者へのアンケート結果を説明する。リアルタイムの操作性が要求される「オンラインゲームはVDSLでは厳しいということがわかった。NURO Wireless 5Gなら、必ず満足してもらえる」とその回線品質を誇る。
料金プランは月額4950円(税込)のみとシンプルかつ光回線と同水準だ。ホームルーターは無償でレンタルする。
つまり、NURO Wireless 5Gは、FTTHの補完手段を超え、高速回線を自宅で利用する積極的な選択肢になっているといえる。「コンペティターはすべての通信事業者」と中山氏は意気込む。
2024年3月21日現在、ソニーワイヤレスコミュニケーションズのローカル5G免許取得数は360を数える。事業戦略上の理由により加入者数は公表していないが、サービス開始当初は15都道府県だった提供可能エリアは現在22都道府県へと広がっている。最近はマンションの管理組合から全戸一括で導入したいという要望もあるといい、さらなる拡大が予想される。
「光ファイバーがないからFWA」ではなく、「光ファイバーよりFWA」が常識となる日が来るかもしれない。