クアルコムジャパンは2011年11月22日、ワイヤレス給電に関する記者説明会を開催した。クアルコムといえば、世界最大の携帯電話向けチップベンダーであり、またCDMAをはじめとするモバイル通信技術をリードしてきた企業として知られるが、今回紹介されたのはケータイ向けのワイヤレス給電ではなく、電気自動車向け(EV)である。
「私どもはワイヤレス給電の分野にかなり長期間取り組んできたが、今がEV向けのワイヤレス給電を始めるタイミングだと思っている」とヨーロピアン・イノベーション部門エグゼクティブバイスプレジデントのアンドリュー・ギルバート氏は語った。
クアルコム ヨーロピアン・イノベーション部門エグゼクティブバイスプレジデントのアンドリュー・ギルバート氏 |
給電効率は「多少ずれても90%」
クアルコムは今月、立て続けに2つのワイヤレス給電に関する発表を行っている。1つはEV向けワイヤレス給電の開発企業であるHalolPTの買収、もう1つはロンドンでのEV向けワイヤレス給電の実証実験についての発表だ。この日行われた説明会は、これらを受けてのものである。
ギルバート氏によると、HalolPTの買収により強化された同社のEV向けワイヤレス給電技術は「効率性」と「寛容性」の点で、競合ベンダーより優れているという。効率性とは、いかに電力ロスを少なくしてムダなく給電できるか、ということ。「多くの方は無線部分の効率性について語るのに対し、我々はエンドツーエンドでの効率性に着目しているが、実際私どものシステムではエンドツーエンドで90%の効率性が実現されている。これはプラグイン(有線)で給電するのと、ほぼ同等レベルの効率性だ」(ギルバート氏)。
クアルコムが技術開発するワイヤレス給電システム。エンド・ツー・エンドで技術を提供する |
また、寛容性とは、ワイヤレス給電のやり易さに関わるもの。EVでワイヤレス給電するそもそものメリットとしては、プラグインを挿す必要がないため、「長いケーブルを取り回す必要がない」「雨や雪のときに便利」などの点が挙げられる。しかし、送電側のアンテナの位置に合わせて、EVを所定の場所にぴったり駐車しないと給電できないというのでは本末転倒。そこで重要になるのが、この寛容性である。クアルコムの技術の場合、「多少ずれても、(送電デバイス)の真上に止めた場合と同じ効率性を実現できる」という。また、上下左右だけでなく、高さ(車高)についても低コストで高い寛容性を確保できているとのことだ。
このほか、給電能力としては3kW、7kW、そして18kWに対応。通常のEVへの給電は3kWでまかなえるが、急速充電したいケースや大型車などでは18kWが求められるという。
「エコシステムの作り方はよく分かっている」
最大50台のEVを使って来年からスタートするロンドンでの実証実験では、どうすればユーザーは使いやすいのか、給電ステーションはどこに設置すべきかなど、「まずワイヤレス給電の課題を見出すことが目的になる」そうだ。また、トライアルには英国最大のタクシー会社や欧州のEVインフラ事業者などが参加する。
ロンドンでの実証実験に使われる電気自動車(EV)。車体下部にワイヤレス給電用の受電装置が取り付けられている。車体前方に見える黒い部分が送電用の装置で、この上にEVを止めることで給電される。将来的には、道路に送電装置を組み込み、走行しながら給電できる時代がやってくる可能性もあるという |
EV普及の最大の課題の1つは充電インフラの整備だが、クアルコムではそのためのエコシステム構築にも積極的に貢献していく考え。「携帯電話の世界での経験を通じて、どうエコシステムを作っていけばいいのかは、よく分かっているつもりだ」とギルバート氏は話した。また、クアルコムのビジネスとしては、技術ライセンスをメーカーに提供することで収益を上げていくモデルになる。
なお、クアルコムは携帯端末向けのワイヤレス給電技術「eZone」にも注力しているが、多くの技術要素は共通なものの、求められる要件が大きく異なっていることから、それぞれ別の事業として進めていくという。