地域アプリは“横展開”
タクシー予約だけではもったいないことから、地域アプリには他にも機能を搭載することにした。例えば行政からの情報を伝える機能だ。
神山町役場では、地区の代表者に行政文書を毎月送付し、回覧・配布を依頼している。しかし、高齢化が進み、住民による回覧・配布が難しい地区も増えてきた。そのため個別配送での対応も始めているが、そのコストなどを考えると、いずれはデジタルに切り替えていく必要があり、地域アプリがその先陣となる。
また、町職員がローカル情報を動画で伝える「かみやまch」や、住民がビデオ通話で相談できる機能なども提供するという。
2023年度末までの目標インストール数は2000アカウント。町民以外の利用も想定しているとはいえ、人口約4800人の町としては意欲的な目標といえるだろう。
他の自治体への“横展開”による収益化も狙っている。地域アプリの運営費などを賄っていくためだ。
当初から多くの機能を搭載する地域アプリ「さあ・くる」だが、一方で最初から使い方などを決め過ぎないことにも留意したという。「あとは皆がいろいろ良いアイデアを出してくれる」というグリーンバレーのメンバーをはじめとする町民や支援者たちとの信頼関係があるからだ。
全国19年振りの高専開校
神山町で今年もう1つ開く大きな花がある。
この4月に開校する「私立神山まるごと高等専門学校」だ。高専の開校は、全国でも19年振りになる。
「テクノロジー×デザインで人間の未来を変える学校。」をコンセプトに、今年4月に開校する「神山まるごと高専」(写真は建設中の校舎)
開校に尽力した1人は、神山まるごと高専の理事長に就任したSansanの寺田社長だ。2010年に同社がサテライトオフィスを神山町に開設してから10年以上にわたる関係の中で開いた花でもあるのだ。
掲げるコンセプトは、「テクノロジー×デザインで人間の未来を変える学校。」。Webサイトには「15歳から、テクノロジーとデザイン、起業家精神を一度に学ぶ」という言葉も踊る。
こうした理念に賛同した多数の企業・個人からの寄付金で創設された神山まるごと高専は、独自の奨学金と公的支援の組み合わせにより、学費の実質無償化も目指している。
「神山町は、地元の住民と様々な方が連携し、社会課題解決のために実際の行動へ移していける環境を比較的作れている。今後は高専の生徒たちとも、こうした活動を続けていきたい。生徒が在学中に起業すれば、神山町の企業も増える」と総務課の平嶋基曜氏は期待をふくらませる。
神山町役場 総務課 平嶋基曜氏
神山まるごと高専は全寮制で定員は1学年40名。高専は5年制のため、5年目には200人の新たな移住者が暮らし、さらに神山町で5年間過ごした卒業生が次々に社会で活躍していくことになる。
「高専の生徒とは卒業後も何らかの関わりを持ち続けていきたい」と平嶋氏。高専で育まれる新しい関係は、まだ今は想像できない、さらに別のストーリーを生み出す土壌になっていくのだろう。