「ようやく市場が立ち上がってきたと実感している」――。NTTドコモ DXソリューション部 DXソリューション企画担当 担当部長の吉澤俊明氏は、セルラーLPWAの最近の動向についてこう表現する。
NTTドコモ DXソリューション部 DXソリューション企画担当 担当部長 吉澤俊明氏
ドコモをはじめ通信キャリア各社は、2018年にセルラーLPWA規格の1つであるLTE-Mのサービスを相次いで開始した。それから2年余り。既存のLTE基地局の活用により全国エリアをカバーし、上り下りとも最大1Mbps(各社による)とLPWAとしては高速通信が可能なLTE-Mの特徴を活かしたユースケースが、ここにきて次々と生まれているという。
市場の盛り上がりを実感しているのは、他の2社も同じだ。なかでもスマートメーターについては、3社が揃って期待を寄せる。
KDDI ソリューション事業本部 サービス企画開発本部 5G・IoTサービス企画部部長の野口一宙氏が「市場全体で数百万回線の需要が見込める」と話すように、スマートメーターは大きな潜在需要がある。そこで3社は、それぞれのやり方で提案を強化している。
KDDI ソリューション事業本部 サービス企画開発本部 5G・IoTサービス企画部 部長 野口一宙氏
中小LPガス事業者のDXを支援KDDIは2020年4月より、LTE-Mを活用した「KDDI ガスプラットフォームサービス」をLPガス事業者向けに提供している(図表1)。
図表1 「KDDIガスプラットフォームサービス」のイメージ
ガスは都市ガスとLPガスに分類されるが、特にLPガスは検針員や配送員の高齢化が深刻な課題となっており、「2019年以降、自動検針・集中監視に対し国から補助金が支給されることが追い風になっている」(KDDI ソリューション事業本部 ビジネスIoT推進本部 IoTイノベーション推進部部長の西山知宏氏)という。
ただ、全国に約1万8000いるLPガス事業者の大半は中小事業者であり、スマート化への対応が遅れてきた。
KDDI ガスプラットフォームサービスは、ガス料金の請求情報や自社のサービス情報の配信などを行えるガスポータル「gasola」も併せて提供しており、遠隔自動検針にとどまらず、契約者との新たな接点の強化などDXを実現することができる。
ドコモのLTE-Mは、NTTグループ企業であるNTTテレコンの都市ガスおよびLPガスの自動検針・集中監視に採用されている。また、東京ガスや大阪ガスとともに、LTE-Mを用いたスマートメーターの実証実験を行っているところだ。
ガスメーターは商用電源の確保が難しい屋外やメーターボックス内に設置されており、長期の運用を行いたいというニーズが多い。これに対し、ドコモでは低消費電力技術「eDRX」(待ち受け中の間欠受信周期を大幅に延ばし、スリープ状態を長くすることで消費電力を削減する)に対応した通信端末を開発し、電池駆動で数年間の稼働を実現しているという(図表2)。
図表2 低消費電力技術eDRXの概要
ソフトバンクは、LTE-Mを採用した「LPガススマートメーター向け通信ボード」をLPガス事業者向けに提供している。
スマートメーターにこのボードを搭載すれば、検針データや保安業務に必要な情報が自動収集され、LPガス利用者の家屋に設置されたガス容器の残量をリアルタイムに確認できるようになる。
ソフトバンクではLTE-Mと併せて自社のIoTプラットフォームと契約すると、通信料が安くなる仕組みも導入している。「価格面の優位性から選ばれることが多い」とソフトバンク IT-OTイノベーション本部 プラットフォーム統括部 プラットフォーム企画部 部長代行の加藤周一郎氏は語る。