経営学の泰斗であるマイケル・ポーター教授はこれまで数多くの業績を残してきたが、特に広く知られているのが「ファイブフォース分析」と「バリューチェーン」の2つだ。ファイブフォース分析は業界の競争環境の分析手法、バリューチェーンは企業内部に関する分析手法の“古典”となっている。
そのポーター教授は「IoT時代の競争戦略」という論考を米ハーバード・ビジネス・レビュー(HBR)の2014年11月号に発表している。これは、米PTCのジェームズ E. へプルマン社長兼CEOとの共同論文で、その邦訳はHBR日本版の2015年4月号に掲載された(関連記事:マイケル・ポーター教授のIoT変革論「モノの本質を変える“過去最大”のIT革命」)。
「IoT時代の競争戦略」は、ファイブフォース分析のフレームを用いて、IoTが企業の競争戦略に与える影響を分析した論文だ。つまり、IoTが企業間競争にどのような変化をもたらすか――企業の外部環境に与える影響が主に分析されている。
では、企業の内部――そのバリューチェーンや組織構造はIoT時代にどう変化していくのか。あるいは、どう変革していくべきなのだろうか。
これをテーマとした論文が先般発表された。HBRの2015年10月号に掲載された「IoT時代の製造業」である。前回と同様、ポーター教授とへプルマン社長兼CEOとの共著として発表された同論文では、IoTが組織とバリューチェーンに与える影響が論じられている。
PTCジャパンは、その邦訳がHBR日本版の2016年1月号に掲載されたことを受けて、同論文に関する記者向け勉強会を2016年1月中旬に開催。同社バイスプレジデントのアッシャー・ガッバイ氏がその要点を解説した。
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PTCジャパン SLMセグメント セールス/事業開発担当 バイスプレジデント アシャー・ガッバイ氏 |
IoTという新しいデータ源が「組織をも変えていく」IoTが企業内部に与える影響を考えるとき、まず注目すべきは、データの重要性の高まりだという。「これまで企業の資産というと、人材や技術、資本だった。しかし、データもこれらに並ぶほど、非常に重要な企業の資産になってきている」(ガッバイ氏)
IoTという新たな情報源 |
企業は従来、大きく2つのデータ源から情報を得てきた。「自社」と「社外」の2つだ。自社をデータ源とするのは例えばERPやCRMに入力された売上情報や売上情報など、社外をデータ源とするのは天候や市場価格、サプライヤーの在庫情報などである。
そこに、3つめのデータ源として登場したのがIoTである。論文では、「製品自体をデータ源として活用するという、かつてなかったことが実現している」としたうえで、「新たに入手可能となった製品データは、それ自体に価値があるばかりか、他のデータ、たとえばサービス履歴、在庫のありか、物価、経路パターンなどとの統合によって、飛躍的に価値が高まる」とその重要性が強調されている。
そして、このIoTという「3つめのデータ源」(ガッバイ氏)は、組織をも変えていく。