Apposite Technologies(以下Apposite) が主力とするWANエミュレーターは、帯域幅や遅延、パケットロス、ジッターなどの条件を設定することで、地上回線、衛星通信、移動通信など、さまざまなネットワーク環境を再現・検証できる装置だ。
イーサネット/光ポートを介して、通信を行うサーバー・機器などとの間に同装置をつなぎ込むことで、実ネットワークと同様の通信環境を模擬することができる。
Appositeは約10年前にWANエミュレーター市場に参入、現在は(1)2点間の通信の検証が可能で、最大スループット100Mbpsから1Gbpsの製品をラインナップする「Linktropy」、(2)N対N通信の検証に対応でき、最大スループット2Gbpsから150Gbpsの製品を擁する「Netropy」の2つの製品シリーズを展開している。
高機能製品となるNetropyでは、1つの模擬回線上に、最大15本のネットワーク経路を設けることができ、経路ごとに個別に帯域幅や遅延などの条件を設定することで、複雑なネットワーク環境の検証を行える。4つの模擬回線を実装し、同時にそれぞれ別の検証を行える機種も用意されている。
WANエミュレーターは、アプリケーション/サービスを早い段階で本番ネットワークと同様の環境で試験することで、開発の効率化・コスト削減が可能になることから、大手の通信事業者やソフトウェア開発会社などで早くから利用されてきた。
とはいえ、既存のWANエミュレーターの操作には専門的な知識が必要であり、価格も高価であることから、ユーザー層は限定されざるを得なかった。
Appositeは、2つの施策により、WANエミュレーターのユーザー層を大きく広げることに成功した。
1つは、Linktropy/NetropyでGUIによる直感的な操作を実現、特別なトレーニングを受けなくても利用できるようにしたこと。
もう1つは、既存製品と遜色のないエミュレーション機能・精度を確保しながら、多くのユーザーが利用し易い価格設定を行ったことである。
Linktropy/Netropyは、システムを構築する際のキャリア回線の評価やアプリケーション検証、トラブルシューティングなどの用途で、NIer/SIer、さらにはエンドユーザーである一般企業にも導入されている。最近ではVDI(仮想デスクトップ基盤)導入の事前検証で使われるケースが増えているという。
IT商社・理経でApposite製品を担当するプロダクトセールスグループの永田氏はLinktropy/Netropyの日本における現状をこう説明する。
「以前は大手サービスプロバイダーやSIerからのお問い合わせが多かったのですが、現在ではオンラインゲームの開発会社がゲームソフトの評価に利用したり、自動車/建機メーカーでは5G回線を利用した車両の遠隔操作のシミュレーションに利用したり、エンコーダ/デコーダメーカーでは衛星回線を利用したサービスの評価に利用したりするケースが出てきています。最近ではIoTデバイスとエッジサーバー間の環境を再現し、事前のデータ転送の確認にも用いられており、大手サービスプロバイダーのみでなく、利用ユーザの裾野が広がっています」
Appositeが昨年リリースした「Netropy Traffic Generation」は、WANエミュレーターと同様、GUIによる操作性と利用し易い価格という2つの特徴をトラフィックジェネレーターで実現しており、新たな需要の創出を狙った意欲的な製品である。
(右から)理経でAppositeTechnologies製品を担当するビジネスイノベーション部プロダクトセールスグループ担当グループ長の伊藤誠一氏、同グループの岩舘セリーナ慈美氏、同グループ主任の永田幸一郎氏