エヌビディアは6月16~17日の2日間、オンラインカンファレンス「NVIDIA AI DAYS」を開催した。製造業、ロボティクス、テレコム、ネットワーク、vGPU(仮想GPU)など幅広いトピックスで、全60セッションを配信。テレコム分野でも多くの注目すべきセッションがあった。その中で、ソフトバンクとNTTドコモは、MECとエヌビディアのソリューションを活用した次世代のネットワークやプラットフォームについて講演した。
AIで支える/AIが支えるネットワークとは「次世代のネットワークは、『AIを支えるインフラ』と『AIで支えるインフラ』の両輪で回していくことが重要」
ソフトバンク 先端技術開発本部 ネットワーク研究室 室長の堀場勝広氏は「AI on 5Gに向けたソフトバンクの取り組み」と題した講演の冒頭でこう指摘した。
AIを支えるインフラとは、例えばMEC基盤上でAIを動かすための潤沢なリソースを提供したり、AIを利用したサービスに対して最適なネットワークを提供することだ。一方、AIで支えるインフラとは、ネットワークの運用にAIを活用することで、ネットワークインフラとこれに利用するコンピューティングリソースを最適化していくことを指す。
とはいえ、「次世代のネットワーク」と一口に言っても、求められるネットワークの要件は産業や用途によって様々だ。全国に高速・低遅延のネットワークを届けなければいけない自動運転のようなユースケースもあれば、ある程度の遅延が許容され、かつデータ容量が小さいセンシングのようなユースケースもある。そうした要求が違う複数のネットワークを同時に実現する鍵が、NVIDIAが提唱する「AI-on-5G」だという。
「ネットワーク機能と、その上で提供されるAIをベースとしたサービスは、すべてGPUでアクセラレートできるソフトウェアになってきている。つまり、ネットワークとAIの基盤は基本的にすべて統一できるということだ。これをエヌビディアは『AI-on-5G』と呼んでいるが、我々はその考えに賛同する。従来、ネットワークを仮想化する大目的は、コスト削減やオペレーション効率の向上とされていたが、ソフトバンクはネットワークとAIの融合を目指すためにネットワークの仮想化が重要だと考えている」
ソフトバンクのAIネットワーク基盤
エヌビディアは今年の後半に、このAI-on-5Gを加速させるために、GPUとDPUの両方を搭載したアクセラレータカード「NVIDIA Aerial A100」の投入を予定している。DPUはData Processing Unitの略で、データのパケット処理を高速化するプロセッサーだ。つまり、Aerial A100を挿せば、1台の汎用サーバー上でAI処理とパケット処理を同時に高速化することができるというわけだ。
ソフトバンクが活用するエヌビディアのテクノロジー
続けて堀場氏は、「AI-on-5G」を実現するためにソフトバンクが活用しているエヌビディアのテクノロジーを紹介。vRANにおける無線信号をGPUで高速に処理するためのSDK「NVIDIA Aerial SDK」や、1つの物理的なGPUを論理的に分割して複数のGPUに見せる「NVIDIA MIG(Multi-Instance GPU)」、AR/VRのレンダリング処理を端末側からMECにオフロードさせるためのSDK「NVIDIA CloudXR」、そしてDPUを挙げた。
「NVIDIA CloudXR」の概要
さらにソフトバンクではAIを活用してビデオ会議とコンテンツ制作の映像・音声を改善するためのプラットフォーム「NVIDIA Maxine」を使った実証実験も行っている。端末からMECサーバーに送信する映像データをMaxineによって圧縮・復元することで、無線リソースを節約しつつ、高品質な映像伝送を実現できたという。
「NVIDIA Maxine」を利用した実証実験のイメージ
「端末に高価なハードウェアを入れることなく、こうした圧縮・復元を実現できるのが、MECサーバーにAIを置くことの非常に重要なアドバンテージだ。また、MIGやAerialなどを使うことで、MECサーバーを無線基地局の仮想化のコンピューティングリソースとして活用することもできる。エヌビディアの言うAI-on-5Gというキーワードがまさに合うと感じている」と堀場氏は話した。