ドコモのIoTビジネス戦略を語る、谷役員インタビュー

この5年間で3倍以上になったが、IoTの可能性はまだまだこんなものではない――。NTTドコモのIoTビジネスの指揮を執る谷直樹執行役員はこう考え、IoTの各フェーズごとに立ちはだかる“壁”を乗り越えるためのソリューションに力を注ぐ。目指しているのは、働く人、暮らす人に寄り添うIoT。NTTドコモのIoTビジネス戦略を聞いた。

――NTTドコモのIoTビジネスを、2014年6月のM2Mビジネス部長への就任以来、リードされていますが、IoT市場のここ数年の歩みと現状について、どう見ていますか。

 我々は歴史的には20年近く前からIoT/M2M事業を行っていますが、やはり特筆すべきはここ数年の伸びです。回線契約数は、この5年間で3倍以上になりました。直近の数字を紹介しますと、900万回線くらいまで伸びています。

特に、大きく伸びている市場は3つあります。1つめが電力・ガスなどを含めたエネルギー関係、2つめが自動車関係です。自動車については、新車マーケットだけではなく、アフターマーケットも含めて確実に伸びてきています。そして、3つめが様々な産業機械をコネクテッド化していく市場です。

ただ、「大きく伸びている」とは言いましたが、IoTにはもっともっと可能性があると思っています。

例えば最近よく「デジタルトランスフォーメーション」ということが言われますよね。しかし、実際にデジタル化に着手できている企業は、まだまだ大企業が中心です。

一般社団法人 日本情報システム・ユーザ協会の「企業IT動向調査2018」によると、売上高1兆円以上の企業では70%超がデジタル化を実施済みです。これに対して、中小企業では十数%にとどまっています。IoTを活用してデジタルトランスフォーメーションを進める余地が、まだまだたくさんあるということです。

今も確実にIoTは伸びていますが、もっと工夫することで、さらに拡大していけると思っています。

谷直樹氏

IoTの課題を因数分解――どんな工夫が求められているのでしょうか。

 IoTによる価値創出フレームワークを整理すると、「コネクテッド化」「見える化」「最適化」「制御・自動化」「コラボレーション」という一連の仕組みの中で価値を創り出しているといえます。ただ、各フェーズの間には、乗り越えなければならない“壁”があります。

IoTの課題を因数分解していきましょう。まずPoC(概念実証)の段階であることも多い「コネクテッド化」のフェーズでは、デバイスを最適なネットワークに接続するための有スキル者が不足しているという課題があります。また、セキュリティへの不安も、IoT導入のハードルになっています。

デバイスをネットワークにつなぎ、データを収集し始めたら、次は「見える化」です。このフェーズでは、投資対効果が不透明、経営層の理解不足などの課題に直面します。

「見える化」で成果が出たら、さらなる価値向上のため、「最適化」や「制御・自動化」のフェーズへ進みます。「見える化」をIoTの“部分最適利用”だとすると、「最適化」や「制御・自動化」は複数のプロジェクトを連携/統合させた“全体最適利用”といえます。そのため、社内制度や組織の壁が課題となります。

1社での全体最適の次は、同業他社や関連業種とオープンに連携する「コラボレーション」のフェーズを目指します。ここでは競争領域と協調領域をどう分別するかなどの課題があります。

このようにIoTで価値を創出するにあたっては、各段階に壁が存在します。そこでドコモでは、こうしたIoTの壁を乗り越えるためのソリューションを提供し、IoT市場をもっと拡大していこうと考えています。

――具体的には、どんなソリューションを提供していますか。

 最初の「コネクテッド化」と「見える化」のフェーズにおいては、IoTを手っ取り早く導入できることが重要です。そのため我々は、LTE Cat.1、LTE-M、LoRaなど、ユースケースに合わせた適材適所のIoTネットワークを用意したうえで、IoTによる「見える化」を手軽に実現できる仕組みをいろいろ用意しています。

例えば、食品などの温湿度を常時監視できる「ACALA」、プライバシーに配慮した音響センサーによる見守りが可能な「リモートモニタリングサービス」などをパートナーと一緒に提供中です。また、トイレの利用回数やごみの堆積量を可視化する「清掃業務効率化ソリューション」、乾電池の電圧の変動を利用して離れて暮らす高齢者を見守る「MaBeeeソリューション」も提供に向けて準備中です。

これらはポッと置くだけで、すぐに使えるような仕組みです。IoTは、こういったものから始めてみることが大事です。

――ただ、IoTを試しに導入してみたものの、PoCで終わるケースは非常に多いようです。

 事前にしっかり目的を設定しないままIoTに取り組むと、PoCだけで終わる可能性が高くなります。PoCをやること自体が目的化しているようなケースも見られます。PoCをやる以上、KPIを明確に決めて定量的に評価することが重要です。その結果、「導入しない」と判断することは当然あるでしょう。しかし、導入しなかった理由を定量的に評価しておけば、次のステップに役立ちます。

「見える化」の壁を乗り越えたら、今度は「最適化」です。集めたデータを分析し、別の価値に転換していくフェーズです。

例えばドコモでは、振動センサーで工場設備の状態監視を行い、さらに収集したデータの分析により故障予兆を検知するソリューションなどを提供しています。

月刊テレコミュニケーション2019年1月号から一部再編集のうえ転載
(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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谷直樹(たに・なおき)氏

1989年日本電信電話入社。移動通信用交換機・サービス制御装置等の実用化開発、移動通信用ネットワークアーキテクチャ・通信制御方式の国際標準化に従事。その後、研究開発部門におけるDirectorとして、国際ローミングに関する技術交渉、国内外の研究開発連携等に従事。2011年7月から関西地域におけるネットワーク構築責任者として、LTEネットワークの構築拡大・品質向上に従事。2014年6月よりM2Mビジネス部長、2015年7月よりIoTビジネス部長として、IoT事業の推進を担当。2017年6月、執行役員

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