昨年来、携帯電話事業者によるエッジコンピューティングのトライアルが、数多く実施されるようになってきた。
その実現技術として広く用いられているのが、ETSI(欧州電気通信標準化機構)で2014年12月から標準化が進められている「MEC(Multi-access Edge Computing)」である。
LTEなどのモバイル通信サービスを用いてクラウドにアクセスする場合、端末とクラウドは一般的に、基地局、コアネットワーク、そしてゲートウェイを介してインターネット経由でつながることになる。このため、どうしても遅延が大きくなる。
そこでクラウドで行っているデータ処理(あるいはその一部)をモバイル網の端末に近い場所で行い、遅延要件の厳しいアプリケーションなどにも対応できるようにしようというのがMECのコンセプトだ。
さらにモバイル網だけではなく、固定網やWi-Fiなど多様なアクセスにも対象を広げるため、ETSIは2017年9月、当初のMobile Edge Computingから略称が同じMECとなる現在のMulti-access Edge Computingへ名称を変更している。
ボーダフォン、ノキア、インテル、NTTドコモ、ファーウェイ、IBMの6社で発足したETSIの標準化グループ(MEC ISG)には現在約80社が参加している。
混雑状況や端末IDをAPIで取得MECを実現するにあたっては、交換機能を担うコアネットワークを経由させることなく、エッジに置いたアプリケーションサーバーと端末が直接やりとりできるようになる必要がある。そこでMECでは、アプリケーションサーバーに加えて、アクセス網を制御する機能も実装した「MECプラットフォーム」が用いられる。
このMECプラットフォームは、NFVと同様の構成の仮想化基盤だ。その上で稼働するアプリケーションは、APIを介して網機能を制御することができる。
APIで網情報を取得することも可能だ。①基地局の混雑状況、②端末のID、③位置情報などを取得するためのAPIが規定されており、例えば混雑状況に応じて利用する帯域幅を変えて、安定した映像配信を行うアプリケーションなども実現できる。
MECを活用して、ビジネスを行うのは通信事業者だけではない。パートナー企業にMECを開放し、多様なビジネスを創出することを通信事業者は狙っている。そこで、こうしたAPIが策定されているのだ。
MECのソリューションに早くから取り組んでいるノキアの日本法人で技術統括部長を務める柳橋達也氏はこう語る。
「最近作られたMECの仕様のほとんどが、アプリケーションで網機能を利用したり、情報を取得するためのAPIを規定するものになっている」
(右から)ノキアソリューションズ&ネットワークス 技術統括部 部長 柳橋達也氏、
モバイルネットワーク事業本部 カスタマーソリューション マネージャー 冨永剛氏
また、MEC ISGでは、特定のユースケースを実現するための仕様策定にも力を入れている。2018年9月にはその第1弾として、MECを用いてコネクティッドカー(V2X)向けにサービスを提供するための仕様がリリースされた。