通信事業者のインフラ分野において、今最も注目されているのがNFV(Network Functions Virtualization)の動向だ。NFVは、専用ハードウェアで構築されてきた通信ネットワークの機能を仮想化し、汎用サーバー/クラウド上で実現しようとするものだが、このビジネスはいつごろから本格化するのか。
「短期的には2015年から仮想CPE(顧客宅内設備)のビジネスが立ち上がり、2018年以降からEPC(LTEコア網)の仮想化が本格化するだろう」と、日本IBMのインダストリー事業本部公共・通信事業部で事業開発部長を務める糸井恭太氏は展望する。
日本IBM インダストリー事業本部公共・通信事業部事業開発部長の糸井恭太氏(左)と、日本IBMシステムズ・エンジニアリング ISEネットワーク・システムズ IBM認定上級ITスペシャリストの板場幹夫氏 |
今や世界中で、主要な通信事業者とネットワークベンダーが共同で機能検証や実証実験を繰り返している。仮想CPE(vCPE)は、いわゆる「サービスチェイニング」の実現につながるものだ。ユーザー単位でトラフィックの経路を制御し、仮想化されたネットワーク機能を選択的に利用できるようにすることで、加入者へのサービス提供のスピードと柔軟性を向上させる。
このサービスチェイニングとEPC仮想化(vEPC)の2つがNFVのユースケースとして最も注目されているものであり、IBMもこれを軸に世界各国の通信事業者とPoC(Proof of Concept)を実行しているという。
焦点は「オーケストレータ」
このようにIBMの通信事業者向け事業においてもNFVは欠かせないテーマになっているが、同社はいわゆるNEP(ネットワーク機器プロバイダー)とは異なり、例えばEPCを構成するSGW/PGW、MME等の製品を持っていない。
vEPCやvCPE、あるいはvIMSといった仮想化されたネットワーク機能(VNF:Virtual Network Function)そのものを提供できるわけではないのだ。
では、どのような強みを打ち出してビジネスを進めていこうとしているのか。糸井氏は「オーケストレータがキーになる」と話す。
NFVには多くの構成要素があり、そもそも単一のベンダーがすべてを提供して実現できるものではない。「パートナーとの協業が必須であり、IBMが得意なポジションでイニシアティブを取っていく」(同氏)のが同社の戦略だ。
そこで今最も注力しているのが、NFV全体を制御・管理する「オーケストレータ」と呼ばれる部分である。具体的には、ソフトウェアで提供されるVNFと、それを稼働させるための基盤であるクラウドインフラをコントロールし、OSS/BSSとの連携も司るものだ(図表)。
図表 NFVの主要な構成要素 |
また、オーケストレータがVNFやクラウドインフラを制御して加入者に対してサービスを提供するには、ネットワークを動的に制御するSDN(Software-Defind Networking)の技術も必要になる。その意味で、SDNもオーケストレータの一要素と言える。IBMは、この領域をNFV提案の核としている。