近年、音声ARPU(Average Revenue Per User:月間電気通信事業収入)の落ち込みが非常に顕著だ。データARPUの伸びを上回る勢いで下落しているため、両者を合算した統合ARPUは、各キャリアともに毎年400~500円の水準で低下している。
このことは、近い将来、音声ARPUとデータARPUの水準が逆転することを意味する。数字上で見る限り、ARPUの逆転現象を「音声通話の衰退」として捉えることも、「データ通信の飛躍」として捉えることも可能であるが、今回筆者は、もう少しその事象をより本源的なところから捉え直したいと考えている。
それは、長年キャリアが取り組んできた各種のマーケティング、サービス開発・提供に対して、マーケットサイドがARPUの逆転という形で“答え”を出したと考えることができるからだ。
ARPUはキャリアにおける業績評価指標の1つであるため、対外的な決算報告において、自社の単年度業績を裏打ちする重要な役割を果たしている。しかし、ARPUを単年度のPL(損益計算書)に影響を与える業績評価指標として捉えるのは間違いだ。キャリアの長年にわたる各種の取り組みに対するユーザーサイドの反応=“答え”が、時間をかけてBS(貸借対照表)上の資産の如く積み上がったものであるからだ。
iモードの登場以来、キャリアのイニシアティブによって市場が形成・育成され続けてきた感の強い携帯電話市場であるが、音声通話の衰退も、低額な定額データ通信サービスの提供も必ずしも当初キャリアが抱いた思惑に沿ったものであるとは考えにくい。
故に本稿では、敢えてARPUの逆転現象を「時代の大転換」として捉え、今後キャリアに求められる事業戦略上の要諦を明らかにする。
データARPUの位置づけ
モバイル環境下における音声通話サービスの提供という形でスタートした移動体通信サービスであるが、iモードをはじめとするモバイルインターネットサービスの登場以降、早い段階からデータARPUの向上は、キャリア各社にとって事業戦略上の重要なテーマとして取り扱われた。
理由は単純明快だ。キャリア各社それぞれが、株主サイドの期待に沿う形で永続的な成長を図っていくためには、現時点における戦略オプションとしても「(1)ユーザーの拡大」「(2)データARPUの向上」「(3)新規事業の確立」「(4)海外進出」の4点しか存在しないからだ(図表1)。
図表1 永続的な成長に向けた事業戦略オプション |
しかしながら、従来から①のオプションには、今後日本市場は加入者ベースでの成長は鈍化するという前提が存在しており、(3)(4)は徐々に積極的な動きを始めつつも一定以上の難易度が存在するため、「(2)データARPUの向上」に多くのリソースが割り当てられたことは、紛れもない事実だといえる。
以上の理由から、キャリア各社は、多頻度・高ARPUを生み出す源泉となるコンテンツやアプリケーションの創出に向けて、自社開発や関連プレイヤーとのアライアンスに注力することとなる。この潮流に乗る形で、数多くのコンテンツプロバイダーが成長を果たした。
現在に至るまでに順調に成長してきた感のあるモバイルデータ通信であるが、データARPUが向上した要因の別側面として、「低額・定額サービス」が登場した事実を無視するわけにはいかない。関係各社の努力により、サービスの質的向上が図られてきたことは賞賛すべき事実であるが、モバイル環境下でのデータ通信利用を促進させ、利用者を増大させた最も大きな要因は、利用料金を気にしないで済む定額サービスの登場といって過言でないであろう。