野村證券のiPad導入の舞台裏(前編)――「顧客接点にどれだけ情報を送り込めるか」

iPadを8000台導入した野村證券。同プロジェクトを主導した国内IT戦略部長の藤井公房氏が、その舞台裏やiPadの導入メリットなどについて「ガートナー セキュリティ&リスク・マネジメント サミット 2013」で語った。

iPadの有名事例はいくつかあるが、昨年7月に本格導入がアナウンスされた野村證券のケースもその1つに挙げられるだろう。全国の営業担当者約8000人にiPadを配布した。

その野村證券でiPad導入プロジェクトを主導したのが、国内IT戦略部長の藤井公房氏である。同氏は、7月1日~2日に都内で開催された「ガートナー セキュリティ&リスク・マネジメント サミット 2013」に登壇し、国内最大級のiPad導入事例の舞台裏などを語った。

野村證券の藤井公房氏とガートナの石橋正彦氏
野村證券 国内IT戦略部長の藤井公房氏(左)と、インタビュアーを務めたガートナー リサーチ リサーチ ディレクターの石橋正彦氏

営業で大切なのは“すし職人”のような手際のよさ

藤井氏が責任者を務める国内IT戦略部は、営業部門に属したIT部門である。藤井氏自身ももともと営業出身。支店長時代には「IT部門に連日電話して、まるでクレーマーのようだった」という。つまり、営業現場のことを肌でよく知るITマネージャーだ。

iPadには、最初から大きな関心を持っていた。iPhoneが登場したときから、「これは営業に使える」という感触があったという。

「先輩は“すし職人”によくたとえたが、証券営業は手際よくお客様に訴えていくことが非常に大事。野村證券でも以前、営業にノートPCを配布したことがあったが、うまくいかなかった。起動が遅く、また電池が持たないから客先でコードをつなぐなど、手際のよさでは紙に勝てないからだ」

一方、iPhoneは、ノートPCと違って“一発起動”。バッテリー駆動時間も長い。さらに、藤井氏は営業マン時代、ポケベルで取得した最新の株価情報を営業時の会話によく活用していたというが、iPhoneならポケベルとは比較にならないほどの情報を入手できる。ただ、残念ながらiPhoneにも1つ大きな課題があった。iPhoneの小さな画面は、顧客とのやり取りには向いていない。

しかしその後、画面サイズの大きいiPadが登場する――。日本での第1世代iPadの発売日である2010年5月28日、野村證券の国内IT戦略部は部員全員で量販店などに並び、22台のiPadを獲得したという。

藤井氏は、当初から営業担当者での活用を主眼に考えていたが、最初は国内IT戦略部内での“実験”からスモールスタートした。それから役員や営業担当者など徐々にトライアル範囲を広げ、2011年7月には営業担当者へのトライアルを1000台規模に拡大。このときに現在の8000台体制に向けた運用管理とシステム基盤がほぼ整備された。そして、その1年後、野村證券は営業担当者8000人への本格展開を果たす。

「タブレットは個の力を引き出す武器」

藤井氏は、iPadの活用目的を3つのポイントに分けて整理している。「顧客とのコミュニケーション」「外出先での情報収集」「業務効率のアップ」の3つだ。なかでも野村證券が「一番重視している」というのが、顧客とのコミュニケーションだ。

インフォテリアのモバイルコンテンツ管理ソリューション「Handbook」を採用し、商談に電子化されたパンフレットを活用しているほか、株価などの投資情報もiPadですぐ顧客に見せられるようになっている。また、顧客の保有不動産の話題が出たら、グーグルのストリートビューで現地をiPadに表示し、さらに会話を弾ませたりといった使い方もしているそうだ。

「IT部門の付加価値をどう出すかというと、我々の場合は、『営業担当者とお客様との接点に、どれだけ情報を送り込むことができるか』。それが、ネットワークとモバイルデバイスに発達によって可能になっている。タブレットは、個の力を引き出す武器なんだと実感している」と藤井氏。

野村證券のタブレット主要機能
野村證券のタブレット主要機能。自社開発したのは「顧客情報Plus」などごく一部で、クラウドサービスを中心に活用している

また、こうも強調した。「移動しながら仕事をする、会話をしながら仕事をする……。タブレットはPCに今あるものを置き換えるのではない。こうしたタブレットならではの使い方に合わせたシステムになっていく必要がある。我々は“モバイル・ファースト”にこだわってやっていきたい」

なお、利用しているアプリなどは一般的なクラウドサービスが中心。自社開発したのはごくわずかで、今後も「基本的にはクラウドサービスをなるべく使おう」との方針だという。

後編では、「タブレットと非常に相性がいい」という野村證券の社内SNSへの取り組みを中心に紹介する。

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