米国のネット中立性は果たして復活するか 2024年オープンインターネット命令[前篇]

インターネット上の様々なトラフィックは公平に扱われ、優先されたり遮断されてはならないとするネットワーク中立性の考え方。米国における中立性ルール復活の動きを全2回で詳しく解説する。

(3)2024年オープンインターネット規則

FCCは、BIAS提供事業者への規制が必要な理由として、BIAS提供事業者が、インターネットのオープン性への脅威となる行動に従事する経済的誘因と技術的能力を持っていることを指摘する。そして、BIAS提供事業者がエッジプロバイダー、消費者、オープンインターネットに害を加える行動を採るために、エンドユーザーへの独占力を持っている必要がないとする。独占力がなくても、BIAS提供事業者は、一般的に一定のマーケットパワーを持つと述べるのである。このマーケットパワーは、一般に商品の差別化、BIAS提供事業者間の制限された選択、甚大なスイッチングコスト、消費者の慣性によって生じ、インターネットのオープン性を害する行為に従事する誘因と能力は、マーケットパワーの増大によって悪化しがちであるとしている。この考え方も2015年命令を踏襲している。

FCCは、連邦規則タイトル47のパート8(オープンインターネット規則)において、次の3つのルールを設定あるいは強化する。即ち、まず、①FCCが「明確なルール」と呼ぶ禁止事項、次に②インターネットの行為について禁止する「非合理的な妨害又は非合理的な不利益」の基準、そして、③透明性のルールである。

①「明確なルール」

最初の「明確なルール」は、内容は2015年ルールと同じである。ブロッキングの禁止(連邦規則タイトル47第8.3条(a))、スロットリング(トラフィックの阻害・劣化)の禁止(同条(b))、有償による優先的取扱い(金銭等との引き替えで特定のトラフィックを他のトラフィックよりも優遇すること)の禁止(同条(c))の3つからなる。これらは1934年通信法第201条(b)(正当で合理的な料金、業務等)への違反を禁止するものだ。

この「スロットリングの禁止」についてFCCは命令の中で、「BIAS提供事業者が『インターネットのコンテント、アプリケーションまたはサービスに基づいて』スピードアップする決定は、その他のコンテント、アプリケーション又はサービスを「阻害又は劣化」させるもので、同様の扱いを受けることをクラリファイする」と明示した。当然のことをわざわざ言っているようにも見えるが、これは米国市民自由連合(ACLU)や電子フロンティア財団(EFF)等からの問題提起に応えたものだった。

②非合理的な妨害・不利益の禁止(ケースバイケースアプローチ)

オープンインターネット規則の第2のルールは、「非合理的な妨害又は非合理的な不利益」を与える行為を禁止するための基準を設けるもの(第8.3条(d))で、この基準に照らして違反行為がないかをケースバイケースでFCCが判断していくというものである。この基準違反は、通信法第201条(サービス提供義務)・第202条(非合理的な差別的取扱いの禁止)の違反に該当すると構成されている。

ここでいう非合理性に当たらないための指標としてFCCは、本命令の中でいくつかを例示している。即ち、(i)エンドユーザーによる統制を許容し、消費者が選択できるようにしているか、(ii)アプリケーション・サービス・コンテント・機器の市場で反競争的効果を持つかどうか、(iii)消費者の合法的なブロードバンドサービス・アプリケーション・コンテントの選択・アクセス・利用の能力に影響を与えるか、(iv)技術革新、投資又はブロードバンド展開への効果、(v)表現の自由に脅威を与えるか、(vi)アプリケーションに中立かどうか、(vii)オープンな場で採用されたベストプラクティスや技術標準に適合的かといった指標だ。

③透明性ルール

第3のルールは、透明性のルールである。透明性ルールは、2010年命令で最初に盛り込まれ、ベライゾン事件での判決でも唯一無効化されなかった。2010年命令で開示対象として例示された内容には、2015年命令でパケット損失の情報などが追加されたが、2017年命令では、2010年命令の内容は多く踏襲したが、2015年命令で追加されたものは削った。

サービス提供条件などの開示をISPに求める方法について、2015年命令では、定型化されたラベル表示情報をウェブサイトなどを通じて消費者に直接伝達する方法が、ボランタリーな方法として設けられた(事業者が任意でこの方式を採る場合には、透明性ルール違反が問われなくなる(セーフハーバー方式))。2017年RIF命令は、ラベル方式は事業者の負担が大きいとして、これを廃止してしまった。しかし、2024年命令を待たずして、バイデン政権下で2021年のインフラストラクチャ法が成立すると、同法でBIAS提供事業者のサービスプランの情報をラベル様式での表示が求められたため、2022年11月14日には、FCCで、ラベリングによる消費者への伝達をBIAS提供事業者に義務づける命令(「ブロードバンドラベル命令」)が決定されるに到った。これによって、この点での透明化は、2015年命令の水準をむしろ超える内容でルール化が実現していた。

2024年命令は、概ね2015年命令の透明性ルールを復活させるものとなったが、ゼロレーティングの情報など、開示内容が追加され、また、BIAS提供事業者の自社のウェブサイトでの開示を求めるなど、開示方法も強化されたものになった(図表6)。

図表6 2024年オープンインターネット命令で示された開示対象例

図表6 2024年オープンインターネット命令で示された開示対象例

この2024年命令は、これに先行した累代の命令と同様に、その反対者からの訴訟によるチャレンジを受けている。司法の場での判断は、ただ、これまでとはかなり雲行きが異なるものとなりそうだ。これについて後篇で紹介する。

*文中の意見は、筆者個人の見解である。

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