米国のネット中立性は果たして復活するか 2024年オープンインターネット命令[前篇]

インターネット上の様々なトラフィックは公平に扱われ、優先されたり遮断されてはならないとするネットワーク中立性の考え方。米国における中立性ルール復活の動きを全2回で詳しく解説する。

2.2015年命令

2015年オープンインターネット命令は、民主党サイドとエッジプロバイダー、消費者団体などの支持を受けてそれまでで最も網羅的な内容のネットワーク中立性ルールとなった。

この命令には、BIASを従来の「情報サービス」とするのを改めて、通信法タイトル2の規制対象である「電気通信サービス」とする「宣言的決定」が含まれていた。

それを踏まえて同命令で新しく設定したルールは、①「明確なルール」と呼ばれる定型的な禁止事項と②ケースバイケースで対応する禁止基準とからなる。これら①②は、2024年命令の内容とほぼ同様なのでそこで後述する。また、2010年からある③透明性のルールについても、その内容を更に強化した(図表2)。

図表2 2015年オープンインターネット命令・2016年助言的指針の透明性ルールで示された開示対象例

図表2 2015年オープンインターネット命令・2016年助言的指針の透明性ルールで示された開示対象例

FCCのこの動きに反対する人々には、必ずしもルール自体には反対しないが、ルールを定めるためにBIASを「電気通信サービス」に分類することに反対する人も多い。それは、BIASが一旦「電気通信サービス」となると、その後に、ネットワーク中立性以外の規制も強化されるかもしれないと考えるからだ。ベライゾンが、2016年にそのブログで公表した見解は、示唆的だ。そこでは、同社自身もFCCのルールの内容自体には賛同するとした上で、次のように述べていた。

「従来、FCCが時代遅れなルールを目まぐるしく動くインターネットエコシステムに適用すると批判してきた。今でもそれは正しいと考えるが、公平に考えると、議会はFCCの道具箱を20年以上にわたって更新しなかったのだから、FCCは、いかに不適切でも、持っている道具しか使わない。議会は、これを適切で法的に持続可能なベースで行うのに必要な道具をFCCに与えることができるのであり、そうすべきだ」

現行法でFCCが無理に解釈変更するのではなく、新規の立法で対応すべきと言っているのだ。

しかし、その連邦議会こそ党派対立の中で新規の立法が覚束ない状況だから、現行法を前提にFCCを舞台とした争いが更に続くことになる。

3.2017年RIF命令

2017年1月のトランプ政権発足に伴い、就任したアジト・パイFCC委員長は、2015年命令の見直しに向けたFCCの同年5月18日から8月30日までの意見募集(応募意見は2200万件を超える空前の件数となった)の後、同年11月21日に声明を発表。2015年命令を全面的に見直し、BIASを「電気通信サービス」から「情報サービス」に分類変更し、BIASにおけるトラフィックのブロッキングやトラフィックの不当な差別的取扱いを禁止するルールを撤廃し、透明性の確保のみを求める方針を明らかにした。

そして2017年12月14日、「インターネットフリーダム復活命令」(2017年RIF命令)がFCC会合で、共和党系委員3名の賛成、民主党系2名の反対で採択された。BIASを再び「情報サービス」と分類する「宣言的決定」と、透明性ルール以外の規制を廃止し、透明性ルールは概ね2010年の水準に戻すという規則改正の命令(図表3、図表4)とを主な内容とする。

図表3 2017年インターネットフリーダム復活規則(連邦規則タイトル47パート8)抜粋

図表3 2017年インターネットフリーダム復活規則(連邦規則タイトル47パート8)抜粋

図表4 2017年RIF命令でISPが開示を求められる情報

図表4 2017年RIF命令でISPが開示を求められる情報

本命令は、直接には連邦レベルのルールに関するものだが、その中の「宣言的決定」で、連邦の規制と一貫しないパッチワークとなる州や地域の規制に対して専占することとした。つまり、州や地域でRIF命令を超える規制が行えないこととし、ネットワーク中立性ルールが地方でも成立することのないようにしようとした。

ただ、連邦規制を自ら否定したFCCが、連邦規制と二重になるとして州の規制を否定するというのは、論理的に苦しいのは事実で、控訴審判決でこの部分は無効とされてしまった。

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