昨年夏以来、標的型攻撃が世間を騒がせている。官公庁や企業など特定の組織を狙って標的型メールを送りつけ、情報システムに浸入し機密データを入手しようとするというのが典型的な手口だ。
どのような企業にも情報漏えいのリスクは付きまとう。標的型攻撃のみならず、セキュリティ上のリスクは増大する一方だ。そうしたなか、セキュリティソリューションとして企業の関心を集めているのがUTMである。
UTMは「統合脅威管理」と訳される。ファイアウォールやアンチウィルス、IPS(不正浸入防御)、迷惑メール対策、Webフィルタリング、アプリケーションコントロールなど、複数のセキュリティ機能を統合したものだ。機能ごとに複数の機器を運用するのに比べ、導入が容易で管理も簡素化できる効率性が評価され普及を続けている。
UTMベンダーのフォーティネットジャパン・コーポレートマーケティング部の余頃孔一部長は、セキュリティソリューションの主役は「ファイアウォールからUTMに置き換わっている」と話す。
ファイアウォールとUTMを販売するウォッチガード・テクノロジー・ジャパンの本富顕弘社長も「UTMが新規売上げの70%を占めている」という。各社ともに売上げは年率20~30%の勢いで伸張している。
市場戦略は2つに大別
UTMベンダー各社は、どのような戦略に基づき市場開発を行っているのか。その戦略は、ターゲット市場の拡大と、特定市場への特化に大別できる。
前者の代表的存在がフォーティネットだ。余頃氏は「大手企業から中小企業、そして通信キャリアまでに当社製品が採用されている」と話す。同社の「FortiGate(フォーティゲート)」は中小企業や支店・営業所などをターゲットとしたものから大企業向け、さらに通信キャリアやサービスプロバイダーまで幅広いレンジで製品をラインナップしている。
大企業や通信キャリア向けに設計されたフォーティネットの「FortiGate-5140B」。14枚のブレードを挿入できる |
従来、中堅中小市場をメインターゲットとしてきたソニックウォールも「エンタープライズ市場の開拓に力を入れている」(澁谷寿夫SEマネージャ)。米国では携帯キャリアも同社製品を採用しており、大規模環境での実績も持っている。マーケティングマネージャの角八重氏によれば、日本でも大企業に強いパートナーとともに「3000人規模以上の企業にアプローチしている」ところだ。
マルチコアアーキテクチャを特徴とするソニックウォールの「SuperMassive E10000シリーズ」 |
一方、中小企業に特化しているのがウォッチガードだ。「顧客の99%は中小企業」(本富氏)と、主要ターゲットは従業員数10~300人規模の企業だ。北海道から沖縄まで、まさに日本全国の中小企業をターゲットにUTM製品の拡販を狙っている。
中小企業では専任のネットワーク管理者を置けないケースが大半だ。一旦導入したネットワーク機器はリプレース期が到来するまで「動作していればそれでよし」としている企業が多い。導入後数年が経過したルーターの取り替えに伴ってセキュリティ対策も検討してみよう——。本富社長自身がそうした企業に対して、地方でネットワーク機器を販売しているパートナーとともにUTMの説明に足を運んでいる。
中小企業向けのため、製品単価は低い。ただし、ウォッチガードとその販売パートナーのビジネスは、UTMを1台納入して終わるわけではない。コンビニエンスストアやレストランチェーン、学習塾など多店舗展開する企業に提案することによって、総額で1000万円を超える案件も増加しているという。
ウォッチガードの中小企業向けUTM「WatchGuard XTM」 |
2010年秋にUTM製品「SS1000」を市場投入したビジネスホンメーカーのサクサは、さらに市場を絞り込んでいる。対象は20ユーザー以下の小規模オフィスだ。
サクサのSOHO向けUTM「SS1000」 |
SS1000は、SOHO向けながらファイアウォール、迷惑メール対策、Webフィルタリングなど基本的なセキュリティ機能を備えているのが第1の特徴だ。それに加えて、サクサが意識しているのは、「ディーラーが手離れよく販売できること」にあると、ソリューション営業統括本部オフィス営業本部第二営業部長の小野明氏は話す。
販売代理店に負担をかけないよう、設置の簡便さに配慮して設計しており、ユーザーはもちろんディーラーにとっても手間のかからない仕組みを用意している。