日本企業がグローバルM2M市場で躍進するための要件[第1回]M2Mは日本ICT産業の“最後の砦”

国内外を問わず、注目されるM2M。日本のICT産業がこの分野でイニシアティブを発揮していくうえで不可欠な要件とは何か? 第1回は、日本企業にとってM2Mが“譲れない戦いの場”である理由を解説する。

グローバルM2M市場における覇権獲得に向けたポイント

こうした背景から、M2Mは日本のICT産業及び産業界全般にとって、非常に重要な意味を持つとともに、今後の量的/質的飛躍に向けて絶好の機会として捉えられる。しかしながら、サービス、ビジネスモデル、技術開発競争がグローバルレベルで展開されることを勘案すると、日本企業として留意すべき懸念点が2つ存在する。

1つは、標準化に対するスタンスだ。これまでの通信/IT関連技術と同様、M2Mの世界においても関連ビジネスの早期立ち上がりや共通的な便益の確立、効率性の高い秩序の推進に向けて、標準化の可能性がITU-Tをはじめとする様々な標準化団体や私的コンソーシアムで議論されている。

日本のICT産業は歴史的に見て、標準化活動に対して概ね積極的であり、確固たる技術の確立に向けて様々な領域で大きな役割を果たしてきた。

しかし、地上波デジタルや3Gに代表されるように、標準化の側面でイニシアティブを発揮する一方、実際のビジネス面においてはその果実を獲得できないパターンが見受けられる。技術とビジネスの効果的なバランスが図れないのは、日本のICT産業の致命的な弱みと言える。

地上波デジタルにおいて日本方式を受け入れた国はわずかであり、テレビの世界シェアも韓国勢に大きく水をあけられてしまった。3Gにおいても、グローバルスタンダードとはかけ離れた日本固有モデルとなってしまい、日本のネットワークベンダーは日本国内でしか陽の目をみることはなかった。

M2Mで同じ轍を踏むことは許されない。過度な技術志向に陥ることなく、ビジネスとしてのM2Mが醸成されるための土台作りを並行して進めていくことが肝要だ。

2点目は、1点目と密接に関連するが、日本発ベストプラクティスの輸出モデルの確立に対する懸念だ。

日本が誇る各産業界の高品質サービスのさらなる飛躍にM2Mが貢献することで、新たな効果・効用が享受可能な各界固有のサービスが創出されることは間違いない。だが、日本国内でしか受容されないサービスでは期待される新市場としての経済規模は限定的となり、コスト競争力の乏しさに起因して中長期的には海外プレーヤーが提供するグローバルスタンダードサービスに飲み込まれる危険性がある。

ここで重要なのは、日本のICT産業だけでなく、実際にM2Mを導入してサービスやオペレーションの高度化を図る日本の産業界そのものが、自身の国際競争力を高める手立てとしてM2Mを有効に活用/機能させるスタンスの確立だ。産業界自身のグローバル化がM2M分野の競争力向上とリンクするスキームを作り上げることが必要と思われる。

M2Mは、もはやICT産業だけのイニシアティブで高度化/成長するシロモノではなくなってきている。各産業界とICT産業との効果的な連携を抜きに、グローバルコンペティションを戦い抜くことは不可能な状況になっているのだ。

次回は海外の先進M2Mプレーヤーの動向を解説する。

松岡良和(まつおか・よしかず)

世界で最初に設立された経営コンサルティングファームのアーサー・D・リトル・ジャパンで、 TIME(Telecommunication/Information Technology/Media/Electronics)プラクティスの日本代表を務める。専門領域は、同分野に対する事業戦略立案、新規事業開発、組織・人事制度改革等。国内最大手システムインテグレーター、会計事務所系コンサルティングファーム、欧州最大手IT・戦略ファームを経て、アーサー・ D・リトルに参画

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