【徹底研究】プレゼンス機能(後篇)――効果を最大化する導入方法

ユニファイドコミュニケーションの中核を担うプレゼンス機能。後篇は、日立製作所の「座席ナビ」などユニークなプレゼンスシステムと効果的な導入の仕方について見ていく。

位置情報が可能性を広げる

このように見てくると、プレゼンスシステムの進化のキーポイントは、「自動化」から「位置情報との連携」に移りつつあることが分かる。

ワークスタイルは、徐々にではあるが確実に多様化している。プレゼンスが、1つの席に電話とPCと人が固定されていた時代の「在席情報」とは異なるものへと変化するのは、当然と言えるだろう。

現在のところは、端末が接続している無線LANアクセスポイントごとに所在を見分けるという方式が主流だ。だが、位置情報の測位技術には他にもさまざまなものがある。中でもプレゼンスシステムとの連携が期待できるのがRFIDやGPSだ。

RFIDは、ビジネスでもプライベートでもすっかり身近なものとなった。入退室システムなどでも使用されているだけに、プレゼンスとの親和性は非常に高いと言えるだろう。

GPSは、従来は建物内に限られていたプレゼンス管理の空間的な制約を一気に取り払うものになる。ユビキタス環境を志向するICTの進化にも、非常にマッチしたものだ。

一例を紹介しよう。OKIが2009年7月に提供開始した車両位置情報サービス「Locoもび powered by PND」だ。ターゲットは、運送業やバス・タクシー業者など。PNDから車両情報と位置情報をセンターに送信し、管理者がPCで車両位置や作業状況の確認、目的地の指示、メッセージの送受信などを行う。

Locoもび
OKIの「Locoもび powered by PND」の管理者PC画面(クリックで拡大)。ここから目的地の経緯度・メッセージ送信も可能

車両の位置情報は管理PCの地図上に表示される。また、ドライバーが状況に応じてPND画面上で選択する、運転/積込/待機などの作業状態、GPS速度から自動検知した車両のアイドリング状態や渋滞情報を通知することも可能だ。ドライバーの動態、進捗状況が把握できる。

ドライバーにとってもメリットは大きい。センター側から目的地が伝えられる場合、携帯電話で直接話をするのが一般的だが、それでは運転を停止し、聞き取った住所を入力してルート検索を行わなければならない。「Locoもび」ではメッセージとともに、目的地の経緯度情報が送信できる。PNDはそれを受け取ると自動でルートを検索。運転の停止も不要で、さらに住所の聞き取りや入力の際のミスも防げる。

ITSビジネスユニットの遠藤広一部長代理は「PCで車両情報を管理するだけでなく、PNDの画面上に他の車両の位置と作業状態を表示する機能の開発も進めている」と話す。各ドライバーが自律的に効率化を図る際の助けになりそうだ。

労務・勤怠管理にも効果

さて、最後に、プレゼンス活用の訴求方法について考えてみよう。

コンタクトセンターでは、一般オフィスに比べはるかに詳細なプレゼンス管理が日常的に使われている。オペレーターのログイン状態、通話中/アイドル状態、休憩中、後処理中など、細かなステータス情報を基にコールルーティングを行っている。

こうした仕組みにより、管理者(スーパーバイザー)側にはオペレーターの負荷を平準化でき、問い合わせをする顧客も、最も適したオペレーターに対応してもらえるというメリットを享受できる。

日本アバイア・市場開発部の丹羽啓晋部長はこうした効果に加えて、「プレゼンス管理の進化は、オペレーターにも大きなメリットを生み出している」と語る。ここ数年、国内でも広がりつつある「在宅オペレーター」の生産性向上だ。

「同僚やスーパーバイザー、さらにオフィス側のプレゼンスが在宅の環境でも確認できるようになることで、『たらい回し』の心配なく、安心してエキスパートに電話を転送できる。さらに、プレゼンスのデータを蓄積し、正確な業務レポートを作ることもできる」(同氏)

同じことは、一般的なオフィスでも言えるはずだ。テレワーカーやモバイルワーカーが社内を“透視”し生産性を高めるツールとして、さらに、経営側には在宅やモバイルワークで課題となる勤怠管理、業務評価を支える役割を訴求すれば、ともすれば“チャットのおまけ”とも見られがちだった従来のプレゼンスのイメージを大きく変えることができる。

どこに入れれば成功する?

また、導入形態も重要な要素だ。NECはここ1年、IM&プレゼンスツールの効果を測る目的で興味深い実験を社内で行っている。

頻繁にコミュニケーションを取る相手をリスト化し、プレゼンス表示とIMが使える簡易なツールを作成。社員の使用状況を分析するというものだが、ユニークなのはその配付方法と目的だ。企業ネットワーク開発本部・製品開発部の岩瀬俊夫マネージャーは次のように語る。

「無理に使わせるのではなく、SNSのような招待制で利用者を募集して、増え方と使われ方を観察した。効果的なツールだと判断されれば、『この人と使いたい』という相手へと伝播していくはず。プレゼンスとIMを必要とするセグメントが分かるはずだと考えた」

スタート時は400人だったユーザーは1年で3500人にまで増加した。日中の同時ログイン数は2100人で、ログイン率は60%。社員の外出などを考慮すれば、強制ではないにも関わらず「定着した」といっていいほど利用率は高い。

実験結果を整理すると、ニーズが高いのは、別フロアや遠隔拠点・他部署との関係が深い組織、フリーアドレス制の部署、在宅勤務の社員。利用シーンに目を向けると、会議中や出張中が多いという。また、「利用者数が増えるとともに、特に管理職では、プレゼンスだけを使って部下の在席を確認し、電話したり会いに行ったりという使われ方が増えた」というのも興味深い。分析から導き出された結果をまとめたのが図表4だ。

図表4 IM&プレゼンスがハマるケース
図表4 IM&プレゼンスがハマるケース

プレゼンスに限らず、システムの新規導入の際はスモールスタートになるケースが多い。だが、冒頭でも述べた通りプレゼンスは、利用率を高め、かつ個々のユーザーが信頼性を実感しなければ、絶対に効果は表れない。

機能が充実してきた今こそ、このような特性を十分に考慮し、最大限の効果を発揮する導入形態や規模を見つけることこそ重要になるだろう。

前篇「ここまで来た!ユニファイドコミュニケーションのコア」

月刊テレコミュニケーション2009年9月号から一部変更のうえ転載(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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