従来IPテレフォニーを提供してきたベンダーは概ね、ソフトフォン(インターフェースとしては、むしろ「電話帳」「連絡リスト」に近い)に機能を埋め込む 形でプレゼンスシステムを進化させてきた。前篇ではこうしたオーソドックスなプレゼンスシステムについて見てきたが、後篇ではそういったアプローチとは異 なったプレゼンスシステムを紹介していく。
“自由”を支える座席ナビ
まずは、日立製作所の「座席ナビ」だ。その名の通り、在席/不在/離席中などの情報を、座席表に表示させるプレゼンス管理ソフトである。
図表1のように、PCにログインすると、座席表示サーバーがディレクトリシステムと連携し、フロアスイッチのポート情報を基にその座席に社員名を表示する。無線LANにも対応しており、1席ずつ正確に名前を表示させることは不可能だが、セル単位で所在エリアを表示する。
図表1 日立製作所「座席ナビ」機能(1) |
ログアウトすれば名前が消え、PCを持って移動すれば表示位置も変わる。PCのスクリーンセーバーが起動すると文字の色を変えて「離席中」「取り込み中」であることを示す。Webアプリケーションであるため、外出先や自宅からでもWebブラウザで利用できる。
座席ナビは、その生い立ちがユニークだ。
日立製作所は数年来、オフィスのフリーアドレス化を進めており、その過程で社員の所在や勤務状況を効率的に把握する必要が生じた。電話などのツール活用のみを考慮すれば、電話帳やバディーリストで用は足りるが、肝心なフェイス・トゥー・フェイスのコミュニケーションも業務には欠かせない。また、管理職が部下の状況を知るためには、「端末状態」よりも「所在」のほうがより重要になる。
そうしたニーズから開発された座席ナビは07年2月から日立製作所内で試行、08年から社内の正式サービスとなり、現在4000名余りが利用している。ユーザー企業への導入実績は6社、計3500名が使用中という。
プレゼンス付きソフトフォン(電話帳)とは逆に、座席ナビは検索システムにコミュニケーション機能を付加したものと言える。図表2のように、名前や部署名から相手を検索したり、拠点やフロアを指定して座席表を表示させたりできる。検索結果には電話・メール・IM、予定表の起動アイコンも表示。また、座席表からも電話・IMが起動できる。
図表2 日立製作所「座席ナビ」の機能(2) |
なお、座席表レイアウトは「Microsoft PowerPoint」で作成・修正が可能だ。図表2では本格的なレイアウト図になっているが、単純化した線画でも十分に用を足す。ユーザー自身でも編集できる。
もう1つ特徴的なのは、ステータスをユーザー自身がまったくいじれないことだ。他のシステムでは大概、手動で強制的にステータスを変更できるようになっている。
だが、座席ナビは、これができない。「信頼性」がシステムの命綱だと考えているからだ。ネットワーク販売推進センタ・CommuniMax製品事業推進部の小高浩氏は語る。
「誰かが『居留守』を始めたとたん、システムの信頼性が崩れだす。『システムを信頼して動ける』ことこそプレゼンスの最も大事な要素と考え、あえて、ユーザーが一切関与できないようにしている」
在席・不在が“そのまま”見える
もう1つ、ユニークな例を紹介しよう。日本コムシスが自社内で活用している「情景共有システム」だ。その名が示す通り“景色”、つまり映像を活用したものである(図表3)。
図表3 日本コムシスの「情景共有システム」(クリックで拡大) |
全国に数多くの拠点、さらにグループ会社を持つ同社では、各オフィスにネットワークカメラを設置し、俯瞰映像を配信している。生の映像で在籍情報を把握するのが目的だ。ネットワークの帯域を節約するために画質やコマ数を落としたとしても十分に用を足す。どころか、記号や文字で表示されるプレゼンスシステムと異なり、「座席にはいるが打ち合わせの最中」とか「忙しそう」といった雰囲気まで感じ取れる。
さらに、部長クラスの席付近は、クリックするとソフトフォンが起動し、そのまま電話が掛けられる。
特別高度な技術も使わず、画素数の少ない安価なカメラと低帯域のネットワークを活用して実現したこの仕組み。まさにアイデアの勝利と言えるだろう。