URSPで1端末複数制御が可能に
これまでネットワークスライシングは、スマホから特定の専用スライスに接続すると、あらゆるアプリケーションが同じスライスに接続されてしまい、スマホのアプリケーション間でリソースを奪い合うという課題があった。しかし今後は、3GPPで標準化された機能「URSP(User equipment Route Selection Policy)」により、アプリケーションごとに使用するスライスを自動的に選択することも可能になる。
KDDIとソニーが2022年12月に行った実証では、URSPの活用により、メールなど一般のアプリに接続する通常スライスのほか、ゲームについては映像信号と操作信号の送受信に異なる性質を有するスライスを割り当てることで、安定したプレイを実現する環境を構築できることが確認されたという(図表4)。
図表4 1つのアプリケーションで複数ネットワークスライスを活用した実証のイメージ
ドコモは2023年度、前述の無線区間制御に加えて、URSPを用いた1端末複数スライス制御の実証実験も予定している。
スマホでのスライシングの用途として、KDDIはゲームなど主にコンシューマーを対象としているのに対し、ドコモは企業での活用も想定する。
自宅や外出先など会社以外の場所でスマホやタブレットを使って業務を行うケースが増えているが、会社のイントラネットにつながっていると、インターネットに接続する際、手動で切り替える必要がある。それがURSPにより、「業務アプリは企業の閉域網に接続し、例えばマイクロソフトなどのSaaSアプリはインターネットに接続するというように自動的に接続先が選択されることで、ユーザーの利便性が高まる」(松岡氏)という。
ソリューションでの展開が有力
ネットワークスライシングは、どのような料金体系で提供されるのか。
ソフトバンクの宮川潤一社長は、かつて決算会見の席上、「5G SAでネットワークスライシングなどの新しいサービスが生まれてくることで、2~3年という単位で従来とはまったく違った料金体系が出てくるのではないか」と語った。
各社ともまだ検討段階だが、KDDIの渡里氏は「我々はスライシングを土管として提供するつもりはない。お客様のビジネスのDXに必要なソリューションに仕立てることで、5Gの価値を最大化させたいと考えている」と述べる。
ドコモはスライシング単体や、ソリューションと組み合わせるなど幅広い提供方法を検討している。「ドコモ/コムには幅広い商材があるので、スライシングがそれらをご利用いただくフックになることを期待している」(NTTコム辻野氏)。
ドコモの法人ビジネスでは、企業の要望や課題に合わせて、5Gをはじめとするネットワークのエリア調査から構築設計・導入支援までをサポートする総合的なコンサルティングサービス「ネットワークカスタマイゼーション」を提供している。
ネットワークスライシングはその発展形としての位置付けも考えられるのではないか、と辻野氏は見る。その際、「混雑時にどのくらいのSLAやスループットを維持するのが妥当なのか、その実現にはどのようなエリア設計が必要なのかといった技術的なノウハウを持っていることがアドバンテージになる」という。
ネットワークスライシングは、通信事業者各社にとって新たな収益源となりうる可能性が高い。その一方、社内アセットや技術ノウハウなど、新たな競争軸が生まれることになりそうだ。