<特集>もっと儲かる5Gへスライシングで新たな競争へ 5G SA時代の有力な収益源

5G SAの目玉ネットワークスライシング。柔軟なネットワークの提供が可能になり、通信事業者にとって有力な収益源となる。ソリューションとして提供することで、アセットやノウハウを含めた競争になりそうだ。

この4月、KDDIがコンシューマー向けに5G SAサービスを提供開始した。これでNTTドコモ、ソフトバンクの3キャリアは、法人・コンシューマーとも5G SAに対応したことになる。

5G SAは、コアネットワークから基地局まで5G用のシステムだけで動作する。5Gコアの導入により実現するのが、ネットワークスライシングだ。

均一なネットワークを平等に提供する従来のベストエフォート型通信は、アクセスが集中すると一部のユースケースやアプリケーションの要求水準に応えることが難しかった。これに対し、サービスごとにネットワークの各種リソースを仮想的に分割し、複数の独立したネットワークを構築するネットワークスライシングは、大容量や低遅延といった特徴ごとに運用するなど、柔軟なネットワークを提供することが可能になる。通信事業者にとってはビジネス機会が広がるだけに、各社ともネットワークスライシングの取り組みを積極的に進めている。

SLA保証型で先行するKDDI

KDDIは法人向けに5G SAを提供開始した2022年2月、商用環境でネットワークスライシングの提供をスタートした。

同社は2016年頃に社内横断組織を立ち上げ、他社に先駆けてネットワークスライシングの技術検討を開始したが、なかでも長年にわたり取り組んできたのが、SLA(Service Agreement Level)に準じてスライスの性能を提供・維持するSLA保証だ。

2022年11月にはサムソン電子とともに、O-RAN Allianceで規定する「RIC(RANの高度な制御を行うコントローラー)」からの指示に基づき、通信環境の変化に合わせて必要なリソースをリアルタイムに提供し、SLAに準じた通信要求に応じる仕組みを開発した。

今年3月に開催された「東京マラソン2023」では、フジテレビジョンの協力の下、スタート地点の新宿・都庁とフィニッシュ地点の東京・丸の内で、SLA保証型ネットワークスライシングを用いて生中継を行った(図表1)。

図表1 SLA保証型スライシング実証の構成

図表1 SLA保証型スライシング実証の構成

放送用カメラ専用スライスとスマートフォンカメラ専用スライスを、観客などが利用する一般のスマホ用ネットワーク(通常スライス)と論理的に分離。多くの観客が集まり、環境変動がある中でも通常スライスの影響を受けずに、高い映像品質が要求される中継映像を安定的に伝送できることが実証されたという。

「東京マラソン2023」の中継現場では、スマートフォンによる中継が行われた(©フジテレビジョン)

「東京マラソン2023」の中継現場では、スマートフォンによる中継が行われた(©フジテレビジョン)

商用環境でのSLA保証型ネットワークスライシングの実証に成功したのは世界でも初めてだ。「アプリケーションごとのSLA要件を保証することで、ネットワークスライシングは真の価値を発揮することができる」とKDDI 技術統括本部 ネットワーク開発本部 ネットワークスライス開発部長の渡里雅史氏は自信を見せる。

KDDI 技術統括本部 ネットワーク開発本部 ネットワークスライス開発部長 渡里雅史氏

KDDI 技術統括本部 ネットワーク開発本部 ネットワークスライス開発部長 渡里雅史氏

KDDIは2024年度以降、このSLA保証型でネットワークスライシングの本格展開を目指している。

NTTドコモは2024年度にネットワークスライシングの商用ネットワークへの導入を目標に掲げる。それに先駆け、2023年度はいくつかの実証実験を予定している(図表2)。

図表2 NTTドコモ2023年度の取り組み

図表2 NTTドコモ2023年度の取り組み

その1つが、無線区間制御だ。ネットワークスライシングは、RANからコアネットワーク、トランスポートにまたがって仮想的なスライスを作るため、これら3つのエリアを統合的に制御する必要がある。「例えば優先度の高いスライスの場合、一般ユーザー向けの通常スライスと比べて3倍の優先度に設定したら、エンド・ツー・エンドで3倍の優先度を達成したいと考えている。その第1歩として、まずは無線区間で実証を行い、2024年度までに伝送区間、コア区間と順次広げていきたい」とNTTドコモ ネットワーク部 技術企画担当部長の松岡久司氏は説明する。

NTTドコモ ネットワーク部 技術企画担当部長 松岡久司氏

NTTドコモ ネットワーク部 技術企画担当部長 松岡久司氏

SLA保証についても「どのくらいのサービスレベルであれば常時維持できるのか、無線区間から実証実験で確認したい」と話す。ネットワーク帯域などのリソースが限られている中で、いかにしてユーザーの要望に応えるのか、実証実験を通じてそのバランスを見極めたいという。

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