ICTの活用をさらに広げたい
受動から能動へ――。ワークスタイル改革委員会の活動とそれをバックアップする社長の意思は同社の風土を大きく変えた。その変化の例は「システムズフォーラム」というイベントに見ることもできる。
このフォーラムは社員の成長機会を増やすための社内研究発表会だ。フォーラムを始めた当初は、社員は招へいした講師の話を聞くだけで、参加者の数も少なかった。しかし、回を重ねるたびに、講演者やワークショップの内容を自分たちで企画して主催したいという社員が増えた。坂本氏は「受動的な状態が能動的、主体的な状態にシフトしてきた」と話す。
「自発的な活動が乏しい」という風土アセスメントの評価をひっくり返す動きも出現している。「部長になってみたい」という20代社員の声がそれだ。その声は「システムズでやりたい100のこと」というイベントで発せられた。このイベントは、ワークスタイル改革委員会が主催するワークショップで文字通り若手の社員がやってみたいことを募り、その実行を後押しするものだ。課長や部長などの管理職はこのワークショップのメンバーにはなれない。20代の社員が占めるワークショップで挙がったのが「一日部長体験をしてみたい」という声だった。
その提案をワークショップのメンバーから聞いた坂本氏は「どういうことなのだろう」と尋ねてみた。返ってきたのは、「部長はどんな仕事をしていてどんなことを考え、どんな判断をしているか知りたい」という言葉。そこにあるのは、与えられた仕事を今もっている知識でこなしていくという受動な姿勢ではなく、未知で高度な世界に向かっていこうという能動的な姿勢だ。
こうした姿勢は、対話しながら将来を見すえて自主的に動くナレッジワーカーがもつ資質だ。ナレッジワーカーの増加は、フェース・ツー・フェースによるコミュニティ活動の推進やICTツールを用いたコミュニケーションの場の創設によってもたらされた。
「点と点を結ぶ線の数と価値を増やすことがこれからの組織マネジメントの潮流」と坂本氏は今考えている。点は社員、線は社員と社員のつながりだ。社員同士がつながる線を増やし、その線がもつ価値を高めていけば組織の力は強くなる。すでに同社にはリアルな活動とICTツールによって社員がつながりあう場ができている。だが、ワークスタイル改革委員会のメンバーは、これで十分だとは考えていない。ICTツールの活用に関しても同じ思いだ。「その使い方をさらに広げていきたい」と口々に話す。ICTをよき道具として組織の風土を変えていく同社の挑戦に終わりはない。
図表2 風土改革に向け東京海上日動システムズが行ったこと |