有線IoTの大本命「802.3cg」が2020年登場――1km先へ給電できる10Mbpsイーサ

イーサネット初のIoT向け規格の標準化作業が進んでいる。最大1kmのデータ伝送・給電能力を有する「IEEE802.3cg」だ。取り回し易さやコスト、耐環境性などにも優れ、有線IoTの可能性を一気に広げる。

本格普及期に突入しつつあるIoT――。その重要な牽引役の1つとなっているのがLPWAだが、IoT向け通信技術のイノベーションは、何も無線ネットワークの領域だけで起きているわけではない。実は今、有線ネットワークの領域でも、注目すべきIoT向け通信技術の準備が進んでいる。

通信速度は10Mbpsと低速ながら、通常のLANの最大100mを大きく超える最大1kmのデータ伝送と給電を実現できる「IEEE802.3cg」(10BASE-T1)の標準化作業が2020年3月に完了する予定なのだ。

国内での実用化に向けた議論も、情報通信技術委員会(TTC)のIoTエリアネットワーク専門委員会(WG3600)の通信インタフェースサブワーキンググループ(SWG3604)で、昨年4月からスタートした。

図表1 IEEE802.3cgの主なスペック(TTCで標準化を進めているスペック)
図表1 IEEE802.3cgの主なスペック(TTCで標準化を進めているスペック)

イーサネットは従来、通信速度と給電能力の向上をターゲットに進化してきた。しかし、802.3cgは違う。LPWAと同様、追い求めたのはハイパフォーマンスではなく、IoTに本当に必要なスペックである。

これまで無線IoTの陰に隠れて、あまり脚光を浴びてこなかった有線IoT――。この有線IoTの世界を一変させるポテンシャルを秘めた802.3cgの詳細について、IoTエリアネットワーク専門委員会の特別委員である北陸先端科学技術大学院大学の丹康雄教授、委員を務めるNECマグナスコミュニケーションズの安川昌毅氏、NTTアドバンステクノロジの田島公博氏への取材をベースに解説する。

  (左から)NTTアドバンステクノロジ グローバル事業本部 環境ビジネスユニット EMCセンタ リーダー(主席技師)の田島公博氏、北陸先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 教授の丹康雄氏、NECマグナスコミュニケーションズ ネットワーク事業部 技術部 マネージャーの安川昌毅氏
(左から)NTTアドバンステクノロジ グローバル事業本部 環境ビジネスユニット EMCセンタ リーダー(主席技師)の田島公博氏、北陸先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 教授の丹康雄氏、NECマグナスコミュニケーションズ ネットワーク事業部 技術部 マネージャーの安川昌毅氏

1ペアのケーブルを使用802.3cgとは一体どんな技術か。まず通常のイーサネットと大きく異なる点が、利用するケーブルだ。

Cat.5e/Cat.6といった8芯・4ペアの一般的なツイストペアケーブルも利用可能になる予定だが、基本的には2芯・1ペアのツイストペアケーブルを用いる。そのため802.3cgは「Single Pair Ethernet」と呼ばれる。線材が4分の1に簡素化されることで、低コスト化や省スペース化、ケーブルの取り回し易さの向上が図れる。

図表2 IEEE802.3cgは1ペアのケーブルを使うIoT向けイーサネット規格
図表2 IEEE802.3cgは1ペアのケーブルを使うIoT向けイーサネット規格

Single Pair Ethernetについて、初めて耳にした人は多いだろう。ただ実は「すでに3つの規格の標準化が終わっている」(安川氏)イーサネット規格である。

初のSingle Pair Ethernet規格は、2015年10月に標準化が完了した「IEEE802.3bw」(100BASE-T1)だ。

802.3bwは通信速度100Mbps、伝送距離は10/40mのクルマ向けイーサネット規格。従来の車載ネットワーク、CAN(Controller Area Network)の通信速度は1Mbpsに過ぎず、高解像度の車載カメラの映像伝送などの用途には使えなかった。そこで規格化されたのが802.3bwだった。通常のLANケーブルよりも径が細い1ペアのツイストペアケーブルのため、狭い車両内部でも効率的にケーブルを取り回せる。

その後、2016年6月には通信速度1Gbpsの「IEEE802.3bp」(1000BASE-T1)、同12月には給電用の「IEEE802.3bu」(PoDL:Powerover Data Line)の標準化も完了した。

これら標準化済みのSingle Pair Ethernet 規格はいずれもクルマ向けで、すでに普及も始まっている。自動車業界の主要企業が参加するSingle Pair Ethernetの普及推進団体、OPEN AllianceのWebサイトには、2022年には3億5000万ポートのSingle Pair Ethernetが出荷されるという予測が掲載されている。

「いくら原材料費が安くなるといっても、わざわざ新たな伝送媒体を使うより、ボリュームの出ている既存のLANケーブルを使ったほうが安く済むのではないか」─。Single Pair Ethernetに対して、そう思った人もいるだろう。この疑問に対する答えがここにある。

次世代車載ネットワークとして採用されたSingle Pair Ethernetは今後、大量のボリュームが出ることが確実視されているのである。

そして、Single Pair Ethernetにおいて、初めてクルマ以外もターゲットにしたのが802.3cgだ。クルマにとどまらず、工場IoTやスマートホーム、ビルオートメーション、農業IoTなど、民生/産業領域の多様なIoT用途に応える。

月刊テレコミュニケーション2019年2月号から一部再編集のうえ転載
(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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