<特集>5Gインフラ ディープガイドSaaS型コアで地域BWA ローカル5Gも見据えるひまわりワイヤレス

「SaaS型モバイルコア」という新たな選択肢は地域BWAやローカル5Gの普及を後押しする。その国内初事例が「ひまわりワイヤレス」だ。クラウドの利点を生かして他事業者とのコア共用も目指している。

「オンプレミス型のモバイルコアでは、今回のサービスはできなかった。初期投資の観点でも、運用・メンテナンスし続けられるかという点でも厳しい。SaaS型コアによってそれが解消された」

2021年5月に地域BWAによるインターネット接続サービス「ひまわりワイヤレス」を開始した、ひまわりネットワーク。インフラ設計・構築を担当したICTソリューション部 技術企画グループ長の大澤博実氏は、SaaS型モバイルコアという新たな選択肢が、それを可能にしたと話す。

愛知県豊田市・みよし市・長久手市でCATV/インターネットプロバイダー事業を営む同社が地域BWAの検討を始めたのは昨年のこと。2020年時点で固定系サービスの光化を完了したこともあり、「無線という新たな領域に踏み込む良いタイミングだった」と小野哲彦社長は振り返る。「これからの時代、無線を活かさない手はない。固定系の既存サービスと無線を融合させて将来の柱にしていこうと声をかけたところ、『いい方法があります!』と手を挙げてくれたのが大澤君たちだった」

HSS/MMEをクラウドで利用地域BWAは、2.5GHz帯(Band41)を使うTD-LTEベースの無線システムであり、携帯電話事業者のLTEシステムと同様、モバイルコアとRAN(無線アクセスネットワーク)でインフラを構成する。

一般的にはコアもRANもオンプレミス型で事業者自身が設置・運用するが、ひまわりワイヤレスは、NECがAWS上から提供するコア機能を利用している。具体的には、加入者情報の管理・認証等を行うHSS(Home Subscriber Server)と、制御信号のゲートウェイの役割を担うMME(Mobility Management Entity)の機能をSaaS型で使う。AWSリージョン内で物理的に独立したアベイラビリティゾーンを複数利用して、コアは冗長化している。

一方、インターネットとの接続やユーザーデータの中継を担うP-GW/S-GWはローカルに置き、ユーザーデータはAWSを経由することなくローカルブレイクアウトする構成とした(図表の左側)。制御情報(コントロールプレーン)のみをAWSとローカル間でやり取りし、基地局間のハンドオーバー制御やSIM管理、認証等はAWS上で行う。

図表 地域BWA(ひまわりワイヤレス)、ローカル5G(2021年度に検証開始)の構成

図表 地域BWA(ひまわりワイヤレス)、ローカル5G(2021年度に検証開始)の構成

システム設計の段階では「エリクソンやノキアのオンプレミス型コアも比較検討した」(大澤氏)が、コスト面、そして運用負荷の観点から導入は難しかったという。「キャリアクラスのコアしかなく、価格が下がってきたとはいえ億単位。お客様に適正な価格でサービス提供するのは厳しかった。さらに、固定系とは違って無線は日進月歩で進歩していくことも問題だった。買っただけではダメで、3GPPの流れに追随していかなければならない。そこで、同時期にクラウドコアを始めたNECと一緒にやっていくことに決めた」

月刊テレコミュニケーション2021年9月号から一部再編集のうえ転載
(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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