日本の農業は今、悩んでいる。
1つめは農業従事者の世代交代に関わる悩みだ。農家の高齢化が進み、日本の農業は新しい担い手を求めているが、そうしたなか増加しているのが就農を希望する若者や、彼らの受け皿となる農業法人である。
ただ、課題も当然ある。その1つが個人の経験や勘などに頼った農作業からの脱皮だ。日本の農業は、農家たちの“匠の技”に支えられてきたが、生まれながらの農家ではない若者たちにそのような技はもちろんない。
悩みの2つめは、安全な食を求める声の高まりに関連する。農作物の付加価値を高めるには、単に安全に作るだけでなく、その安全性をきちんと消費者などに説明できることが重要である。
この2点の解決策として、近年広まり始めているのが農作業の工程管理だ。これは、日々の作業内容や肥料・農薬の使用量など、農作業の全工程を記録・点検するというもの。
工程をしっかり管理することで、作業ミスの防止や改善点の発見につながるなど、個人の経験や勘に頼らない農業を実現できる。また、残った農作業記録は安全性の証明となるほか、何か問題が起こった際の原因究明にも役立つ。農業の大規模化が進む海外では工程管理は広く普及しており、国内でも数年前から農林水産省等が国際的な工程管理手法「GAP(Good Agricultural Practice)」の導入を推進している。
しかし、数名規模の農業法人がほとんどの日本において、工程管理にかかる負担は非常に大きい。詳細な農作業記録の提出を求めるメーカーや小売店などと取引する農業法人や農家を中心に、国内では工程管理の本格導入が進んでいるが、ソフトバンクテレコムの田中克和氏によれば、「ある農業法人では夜の7時、8時に農作業を終えた後、PCを扱える一部の若手が11時、12時までかかって、紙にメモされた農作業記録をPCに打ち込んでいた」という。
農業の業務改革に役立つことができないか――。田中氏がこう考え始めた当初、思い描いていたのは実はM2M通信による遠隔監視だったそうだ。しかし、「ヒアリングを重ねるうちに、そうしたハイテクなソリューションの前に、もっと身近な問題で困っていることが分かった」。つまり、農作業の工程管理をいかに効率的に行うか、という問題である。
そしてソフトバンクテレコムとツールズは「TOOLS AGRI」を共同開発し、2009年9月から提供開始した。
TOOLS AGRIの実際の携帯画面とPC画面。写真はTOOLS AGRIを導入した信州ファーム荻原のもの。ソフトバンクテレコムとツールズは、同社の荻原昌真農場長が会長を務める全国農業青年クラブ連絡協議会などとも連携しながら、TOOLS AGRIを広めていきたいという |