あらゆるものの「ワイヤレス化」が進んでいるが、人工衛星などの宇宙機内を完全にワイヤレス化しようという挑戦も始まっている。宇宙航空研究開発機構(JAXA)のブースで、その取り組みが紹介されている。
人工衛星の中には、様々なユニットが搭載されているが、これらユニット間の通信や電源供給は現在のところ、すべて有線ケーブルで行われている。JAXAの説明員による、これらのケーブルをワイヤレス化することができれば、大きく4つのメリットが得られるという。
JAXAのブース
まずは軽量化だ。人口衛星にとって、その軽量化は打ち上げコストの削減など重要な意味を持つが、ある人口衛星の場合、全体質量の10%をケーブルが占めているという。
2つめは、設計・製造にかかる期間とコストの削減だ。ワイヤレス化による組み立て作業の簡素化により、宇宙機を早く安く作れるようになる。
3つめは、安全性・信頼性の向上だ。ケーブルがなければ、不具合発生時の取り外し/再組立て作業時のミスを軽減できる。また、ケーブルがなければ、機構部の摩耗/劣化も防げる。
そして、4つめが高機能化だ。ケーブルがなくなり、人工衛星内のユニットの配置の自由度が高まれば、拡張性や運用性が向上し、高機能化が期待できる。
そこでJAXAは宇宙機内のワイヤレス化の研究に取り組んでいるのだ。
IR-UWBモジュールを載せた無線ユニット(上)と小型人工衛星(下)
では、ブースで紹介されている研究内容を紹介していこう。まずはワイヤレスセンサだ。起動用発振器からの電波のエネルギーによって起動するセンサだ。エネルギーハーベスティング(環境発電)を活用することで、起動回路がオンになるまでの電池消費をゼロにできるという。
通常の電力供給についても、ワイヤレス化の研究を進めている。原理はEVのワイヤレス給電と同じだが、人工衛星の中で利用するため、その機構のコンパクト化とシンプル化が重要とのことだ。
もちろん、通信のワイヤレス化も目指す。JAXAが取り組んでいるのは、IR-UWB(インパルス方式広帯域無線通信)というUWBの一種を使った宇宙機内通信。狭い人工衛星の中を乱反射する電波を解析し、様々な対策を施すことで、通信エラーの削減に努めているという。さらに、基板間を高伝送レートで通信する10Gbpsクラスの非接触コネクタの研究も披露されていた。
ところで、こうした研究成果が役立つのは、宇宙環境だけではない。究極のミッションクリティカル環境といえる宇宙向けに開発された技術は、これまでから民間の幅広い分野でも活用されてきた。
「宇宙機だけではなく、様々な用途で使われていくと、我々も大変うれしい」。今回の出展の目的の1つも、宇宙業界以外の人に、JAXAのワイヤレス技術を知ってもらうことにあるという。