――IoTに注目が集まるなか、様々なLPWAの方式が登場し、マーケットを盛り上げていますが、この現状をどう見ていますか。
原田 いろいろな方式が出てくることは悪い話ではないのですが、なかなか“理想”と“現実”がかみ合っていないとは思っています。実証実験は多く行われていますが、商用化され、ビジネスになっているケースはあまりありません。
なぜ、このような現状になっているのか。理由をしっかりサーベイし、IoTが次に進むべき道を予測できているかというと、十分とは言えないのではないでしょうか。
――あまり深く考えていない人が多いということですか。
原田 長期的な視点で、ビジネスを計画しきれていない気がするのです。
携帯電話の世代が10年ごとに変わってきたように、通信システムの実用化、商用化は10年が基本です。まず絶対に10年はじっくりと取り組む必要があります。Wi-Fiにしても1999年に始まり、18年掛かって、ここまで来ました。LPWAだけが、3年で済むということはありません。
また、今まで成功した通信システムは、すべて1000万台以上のユーザーがいる市場がベースになっています。なぜなら、日本のメーカーは1000万台以上のデバイスが出始めて、初めて「ビジネス」だと考えるからです。
国内で1000万台以上というと、携帯電話が1億台以上、自動車がおよそ5000万台、ゲームが数千万台です。「コンシューマー用の“モノ”に無線機を付ける」といった話は一見華やかに見えるのですが、大体これらに絡まないと1000万台には届きません。現在のIoTの実証はこのような“目先だけの”“見た目のよいもの”が多く、そのため残念ながら、根のあるビジネスとはならないのです。
――「過去の歴史に学んでいない」というわけですか。
原田 そうです。私が2012年に創業者としてWi-SUNを立ち上げる際は、1000万台導入できる市場からスタートしないと絶対に成功しないと考えました。
では、1000万台のユーザーを必ず確保できる市場はどこにあるのか。最初はコンシューマーではなくインフラのほうが手堅いと、目を付けたのがスマートメーターでした。スマートメーターの市場がどれくらいあるかというと、東京電力管内だけで約2700万台です。しかも、8~10年周期で必ず交換需要が発生するので、安定的なビジネスが成り立ちます。
これだけの市場規模があると、大手メーカーが最初から動き始めます。Wi-SUNの場合、テキサス・インスツルメンツ、ラピスセミコンダクタ、アナログ・デバイセズ、シリコンラボの4社が当初からチップを供給しました。複数のチップベンダーによる競争がなければ、コストは安くなりません。また、2700万台のスマートメーターを1社で作ることはないですから、相互接続が絶対に必要になります。異なるメーカーの製品が相互接続できるようになると、ビジネスに広がりが出てきます。
さらに、スマートメーターには、99.5%以上の接続率という高信頼性が求められます。この要件を満たせれば、まずコンシューマー用で問題が出ることはありません。
スマートメーターで成功すれば、基盤となるビジネスモデルを確立できるため、Wi-SUNはまずこの市場を狙ったのです。“あらゆるモノをつなぐ”では結局何もできません。やはり、得意な領域があって、そこから発展させていくことが必要です。