NFVでテレビ中継網がさらに進化――SD-WANで広がる映像系IoTの可能性

日本のテレビ網は世界初のSDN――。NTTコムは2012年からSDNを適用した広域網を放送業界に提供してきた。同社はこれをベースに、4K/8K時代の新サービスを生み出す「映像SD-WAN」を目指す。

我々が毎日視聴している地上デジタルテレビ放送。その基盤ネットワークにSDN(Software-Defined Networking)が用いられていることは、あまり知られていない。どころか、構築されたのは2012年のことだというから、我々は知らないうちに、世界で最も早くSDNが導入された最先端の広域ネットワークの恩恵を受けていたことになる。

NHKおよび民放各局が利用するテレビ中継網をSDN化したのは、電電公社時代からテレビ中継専用のバックボーンネットワークの設計・構築、運用を担ってきたNTTコミュニケーションズだ。技術開発部長を務める山下達也氏は12月に開催した説明会で、SDNの先進事例としてこの取り組みを紹介した。

さらに同氏は、その技術と運用ノウハウをベースとして、放送業界だけでなく多様な業種の映像系アプリケーション/サービスに活用できる「映像SD-WAN(Software-Defined WAN)」の実現を目指しているとも話した。「4K/8Kの時代には、映像はすべての業界に絡んでくる。映像SD-WANを我々の主力サービスにしたい」

回線切り替えをSDNで全自動化現在のテレビ放送において、SDNはどのように活用されているのか。

NTTコムは地上デジタル放送の基幹回線として、各テレビ局のキー局と系列局の番組配信や素材集信に使われる映像専用回線を提供している。24時間365日、1パケットのロスも許されないミッションクリティカル性の高いネットワークだ。同社は2012年、この回線上で提供する、テレビ局間を結ぶ映像伝送サービスにSDNを導入した。

それによって実現した機能を示したのが図表1だ。


図表1 テレビ中継網におけるSDNの活用機能の例
図表1 テレビ中継網におけるSDNの活用機能の例

放送運行においては、あるときは東京のキー局から全国の系列局に、あるときは東日本は東京から、西日本は大阪からといったように番組配信、つまり回線運用の形態が変わる。この回線切り替えを秒単位で行うのにSDNが使われている(図表1の左)。放送局側の担当者が予約システムに登録を行うと、指定した時間に自動的にそれが実行される仕組みだ。

もう1つ、複数局からキー局に集められる映像素材のスイッチングにもSDNは使われている。キー局の担当者はワンクリック操作で、中継映像を切り替えることができる。

この仕組みは、当時スウェーデンの新興ベンダーであったTail-f SystemsのSDNコントローラを使って実現されている。様々なベンダーのハードウェア、仮想アプライアンス、SDNコントローラと連携する汎用ソリューションとして設計されたもので、サービスの仕様に従ってネットワークを自動的に設定・制御する機能を持つ。なお、Tail-f社は2014年にシスコシステムズが買収。そのSDNコントローラは「Cisco Network Services Orchestrator」として現在、シスコのサービスプロバイダー向け製品の中核となっている。

2012年から運用を開始したこのテレビ中継網は翌年9月、欧州最大の放送機器展であるIBCの「Innovation Awards」を受賞。MPLSにSDNを適用した先進性と、映像伝送の運用性向上が高く評価されたという。

月刊テレコミュニケーション2017年2月号から一部再編集のうえ転載
(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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