「投資対効果に見合うのか――。どうしても民間企業の場合、そうした議論になるが、必要な初期費用を支援いただけたことが大きかった」
ふるさとテレワーク推進事業の意義について、こう語ったのは佐賀県鳥栖市で行われたふるさとテレワークの実証事業に参加したパソナテックの粟生万琴氏だ。
4月22日に行われた第5回 ふるさとテレワーク推進会議。実証事業に参加した15地域が成果報告を行った |
ふるさとテレワークとは、ICTの活用により、地方で暮らしながら、都市部の仕事を行う働き方のこと。総務省は昨年度から、ふるさとテレワークの推進事業を行っている。
パソナテックがふるさとテレワークに参加した目的の1つは、「離職なき、ふるさと帰還」の実現にあった。介護や子育てなどを理由に、やむなく離職して地元に帰る人は多い。しかし、ふるさとテレワークができれば、離職することなく、地元に帰って同じ仕事を続けられる。
素晴らしい仕組みと賛同する人は多いだろうが、いざ自社で取り組もうという場合、費用の面をはじめ、ハードルは非常に高い。そこで、パソナテックの粟生氏が言うように、ふるさとテレワーク推進事業の意義がある。
ふるさとテレワークで会津若松市をデータ分析官の一大拠点にふるさとテレワークの実証事業は今回、次の15地域で行われた。
北海道北見市・斜里町、北海道別海町、岩手県大船渡市、山形県高畠町、福島県会津若松市、群馬県高崎市、長野県塩尻市・富士見町・王滝村、長野県松本市・神奈川県横須賀市、京都府京丹後市、奈良県東吉野村、和歌山県白浜町、徳島県鳴門市、福岡県糸島市、佐賀県鳥栖市、沖縄県竹富町である。
総務省は募集にあたり、サテライトオフィス/テレワークセンターを拠点として、「地方のオフィスに、都市部の企業が社員を派遣し、本社機能の一部をテレワークで行う」、もしくは「子育てや親の介護を理由に地方への移住を希望する社員が、テレワークで勤務を継続する」ことを必須要件にしており、各プロジェクトには様々な企業が参加している。
具体的な企業名を一部挙げると、グーグル、日本マイクロソフト、アクセンチュア、富士ソフト、富士ゼロックス、セールスフォース・ドットコム、NTTコムチェオなどだ。
例えば、アクセンチュアの場合、今回のふるさとテレワーク推進事業を活用し、会津若松市にデータ分析官の一大拠点を作ろうとしている。
会津若松市には、「コンピュータ理工学」を特色とした会津大学があるが、アクセンチュアの中村彰二朗氏によれば「卒業生の8割強が東京に就職する」という。会津若松市には、コンピュータに関するスキルを活かせる仕事が少ないためだ。
これは、大学を卒業したばかりの若者だけの問題ではない。UターンやIターンを考えている人にとっても大きな課題である。今、UターンやIターンというと、現在の職業を変えることはもちろん、収入減も迫られることがほとんど。
「地方=工場、地方=コールセンターという事業も必要だが、1000万円内外をもらえるサラリーマンが地方にいてもいいじゃないか」(中村氏)
そこで、アクセンチュアは、コンピュータの専門大学のある会津若松市に雇用基盤を作ろうと考えた。データ分析という仕事にしたのは、ビッグデータ時代が本格化しているにもかかわらず、日本はデータ分析の人材が決定的に不足しているからだ。そして、データ分析という仕事を、東京で行う必然性もない。
実証実験では会津若松市内のテレワークセンターを利用し、従来東京本社で行っていた高付加価値業務を、テレワークによって地方で行えるかを検証したが、「テレワークセンターに新たに2社の入居者が入ったことが、その成果を表している」と中村氏は語った。